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2008年03月01日
[ タンゴ ]
『若き民衆』
昨日は東京オペラシティのコンサートに行ってきました。ピアソラとフェレールによるオラトリオ『若き民衆』日本初演。公演に至る経緯などは斎藤充正さんのブログの記事に詳しいです。去年の4月には既にかなり準備が進んでいたことになりますね。
tangodelog: 忘備録のような
http://tangodelic.tea-nifty.com/tangodelog/2007/06/post_47c3.html
個人的には、オペラシティは04年のモサリーニ公演以来。今回は25列で比較的後ろのほうだったけど、タンゴの小編成ではなくオーケストラだったので、全体が見渡せる位置だったのはよかった。
19時開演。『プンタ・デル・エステ組曲』は、小松さんではなく自分と同世代の若手バンドネオン奏者、北村聡さんがオケを率いていてびっくり。そして全く見劣りしない演奏で素晴らしかった!
この曲は迫力あるイントロ、幻想的なコラール、壮大で緊張感のあるフーガの3つの楽章からなるバンドネオンと管弦楽のための組曲。すごく好きなんだけど、ピアソラ本人による録音も少なくて、自分が持っているのはノイズと音飛びが激しいバージョンしかない。ので、今回の音源を売って欲しいくらい。
フーガのイントロで、バンドネオンに続いて入ってくる近藤久美子さんのヴァイオリンが、クラシックのものではなくてあまりにもタンゴ的で、最高でした。
続いて、小松さんによる今回初演の新曲。プログラム上ではタイトルも未定で、別紙で発表された。いい曲!小松さんの自作曲って、はじめは分からなかったけれど、数が揃ってきてだんだん個性が目立つようになってきた気がする。少なくとも、ピアソラのように、殺すか殺されるかみたいな悲壮感はないし、なんというか、寂しい曲調でも不思議とポジティブで軽快なイメージ。また聴きたいなぁ。
20分の休憩を挟んで、メインプログラム。バンドネオン、女性歌手、男性ナレーター、ピアノとギターを含むオーケストラ、混声コーラスという大編成による50分の大作で、ピアソラ本人による公式な録音もなく、ほとんどの人が未聴といういわく付きの作品。
私は今まで、同じフェレールとの『ブエノスアイレスのマリア』やボルヘスとの『エル・タンゴ』みたいな音楽と文学が組み合わさった作品には、あまりピンと来なかったのだけど、初めて生で聴いてみて、やっと少し理解できた気がする。これは単なる異分野の芸術のコラボレーションではなくて、この形態でしか表現できない何かがあるんだと感じた。
大まかなストーリーは、ブエノスアイレスの架空の創世神話のようなもので、ラプラタ河の地下に住む人々と、そこにやってきた人々の物語。とはいってもアルゼンチン文学の詩的な世界なので、ほとんどは抽象化された断片でしか語られない。今回は、舞台の左右上部に縦置きの電光掲示板があって、スペイン語の歌とナレーションの訳が出るので、それを追っていく。例えはヘンだけど、UnderworldのライブでのTomatoのVJみたいなシンクロ感も少しある。音楽と言葉の洪水!
第2部の中盤に、音楽的にも物語的にも大きなヤマがあって、そこですごく感動した。あやうく泣きそうになりました。
アンコールは、ピアソラ/フェレールの名作『ロコへのバラード』!伴奏は小松さんのバンドネオン、ではなく、ピアソラ作品の演奏に定評のある黒田亜樹さんで、こちらも素晴らしかったです。2曲目にオラトリオからの抜粋があって、21時過ぎに終演。
ちなみに今回の公演はNHK-FMで録音していたらしく、後日「ベスト・オブ・クラシック」(放送日未定)のなかでオンエアされるようです。
アストル・ピアソラ没後15年記念
幻のオラトリオ『若き民衆 El Pueblo Joven』日本初演
アストル・ピアソラ:プンタ・デル・エステ組曲
- イントロダクション
- コラール
- フーガ
- レント
- ショーロ風
- アンコール
- 小松亮太:土手と君と
アストル・ピアソラ/オラシオ・フェレール:オラトリオ『若き民衆』
第1部 さまざまな記憶- 序章 海のような大河から
- 第一の記憶 兄弟よ、この物語は告げられた
- 第二の記憶 河の子どもたち
- 第三の記憶 小さな裏切り
- 第四の記憶 そして水は悲しみに
- 第五の記憶 神秘の漁師たち
- 幕間 空っぽで巨大な貝殻から
- 第一のメッセージ 別世界からのタンゴ
- 第二のメッセージ 愛する君よ、僕は信じる
- 第三のメッセージ 若き恋人たちの歌
- 第四のメッセージ 愛のハレルヤ
- 第五のメッセージ 炎の船
- 第六のメッセージ 3つの声明
- 最後のメッセージ 銀(プラタ)の春
- アンコール
- ロコへのバラード
- (『若き民衆』より)第二の記憶 河の子どもたち
- 小松亮太(バンドネオン)
- 北村聡(バンドネオン)
- カティエ・ビケイラ(女性歌手)
- パブロ・シンヘル(ナレーター)
- 齊藤一郎(指揮)
- 特別編成オーケストラ/合唱
一部訂正、です。
アンコールのロコへのバラードでピアノを弾いたのは黒田さんではなく、オラトリオでナレーションを担当していたシンヘルさんだったとのことです。この方、本業はピアニストで指揮者なのだそうで。
投稿者: R-9 | 2008年03月05日 01:24