Undertale
2015年に発売され、既に名作と名高いインディーゲーム『Undertale』をプレイしたので感想を書いておきます。初回クリアまで6時間、有志による非公式の日本語化パッチを利用しました。以下、ネタバレは書きませんが、気になる方は事前知識を何もいれずに遊んだほうがいいですよ(私もそうした)。
トレイラーにもあるように、「誰も死ぬ必要のないフレンドリーなRPG」。バトル画面のコマンドに常に「慈悲(MERCY)」があって、モンスターの生殺与奪の権利がプレイヤーに委ねられている。けど、シリアスに向き合うというよりかは、ナンセンスギャグ的なおふざけの一環として提示されるので、リラックスして自分の心に正直に。
とにかく、確かに名作なのでした。これを楽曲を含めてほとんど一人で作ったというToby Fox氏は間違いなく天才で、偏執的な作り込みの細かさと、可愛らしい見た目のなかにどこかいびつな狂気が混在している感じは『Fez』のPhil Fishを彷彿とさせる危うさがある(ただあれはどちらかというと未完成さが際立ったのに対して、こちらは完成されている)。もちろん、『Mother』や『Moon』を引き合いにこのゲームを語るのもアリだと思います。
ゲーム性に関しては、普通にRPGだと思っていたら、けっこう弾幕シューティングの要素が大きくて意表を突かれました。敵のターンではひたすら自機のハートを操作して弾幕を避ける。この戦闘の演出が手を変え品を変え、本当にバリエーション豊富に楽しませてくれる。一方で、パズルやアクションの要素のあるダンジョン攻略は比較的簡単な部類で、これはおそらく演出上どこにウェイトを置くかという判断なのかなと思いました。シナリオと雰囲気を楽しんで欲しかったのだろうなあ、というのは想像に難くない。
で、そのシナリオなんですけども、こういうゲームシステムなので、ある程度はオチの予想はつくわけですね。つまり、自分の起こした行動に対して、最後の最後には何らかの清算があるのだろうみたいな。なので当然プレイヤーとしても色々と足掻いてみるんだけど、やむを得ず戦うほうを選ぶ、的な場面もあり…しかしその選択に導くまでのメタフィクショナルな演出が上手いのです。もっと言うと、「普通のゲームならさすがにここで諦めるよね」みたいなシチュエーションが次々に出てくる。そこでどうするか、というのが鍵になる。
クライマックスの伏線回収パートの雰囲気も私は大好きで、胸に迫るものがありました。作者はこれを見せたかったんだな、みたいなね。それと、音楽は本当に掛け値なしに素晴らしくて、特にUndyne戦やAsgore戦のような曲はスーファミRPG世代にはたまらない熱さがありました。
ただ、どうーしても納得がいかなかったのがFloweyまわりの演出…。こんなにも和解と赦しの尊さを美しく描いているのに、そこでまったく話の通じない、悪意しかないキャラクターを出してしまったら意味がなくない?みたいな。このパートだけすごく不愉快なんだ。大事なテーマが濁っている。
あまりにも納得がいかなかったので、何かバックグラウンドがあるのだろうと2周目のお話の概要もざっと先に読んでしまったけど、それでもなんかピンと来ない。変な話、キャラクターを見殺しにしたことを後悔させられるのとかは全然良くて、それこそ2周目に噛み締めればいいわけですよ。違う違う、もっと単純に、私はこのゲームで感動したのだから、最後まで感動して終わりたかったんだ…!
あとは、全体的に漂うナンセンスジョークのノリが合う合わないみたいなものもある。有志の日本語化パッチの翻訳も、すごく頑張っているのは伝わるんだけど、どうしても冗長になってしまう。ただ、真に迫るメッセージをかわいらしいユーモアに包んで、押しつけがましくなく伝える良さは随所にある。
いろいろと惜しいところはあるものの、それにも増して飛び抜けた部分が光る佳作でした。
Steam:Undertale
http://store.steampowered.com/app/391540/
ジェイ・クリストフ『ストームダンサー(上)』
11月末に刊行された小説『ストームダンサー(上)』を読み終えました。原作は、オーストラリア人のジェイ・クリストフ(Jay Kristoff)氏による"The Lotus War"三部作の一作目 "Stormdancer"(2012年)で、翻訳は我らがダイハードテイルズの本兌有+杉ライカ両氏。二か月連続刊行が予告されており、今月末に早くも下巻が出ます。
ロータス戦記 1 ストームダンサー 上 | ジェイ・クリストフ, toi8, 本兌有+杉ライカ |本 | 通販 | Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/4047307114/
以下、なるべく本筋のネタバレを避けて。
戦闘少女+グリフォン=ストームダンサー
空を舞うスカイシップ群。蒸汽駆動甲冑に身を包んだ侍たちが構えるチェーンソーカタナ。 〈蓮〉排煙で汚染された帝都カイゲン。死滅土(デッドランド)が急速に広がりつつあるシマ列島。シマを支配するショーグン・ヨリトモから、伝説の獣〈雷虎〉(アラシトラ)の捕獲を命じられたユキコは狩猟の旅に出る。
「ニンジャスレイヤー」の 翻訳チームが仕掛ける 和風スチームパンクの傑作!
とても面白かった。当然ながらニンジャスレイヤーとはまたまったく違った読み味で、新鮮な気持ちで楽しめました。上のKADOKAWAによる公式の紹介文の通り、歴史上の日本がモチーフの架空世界「シマ帝国」を舞台とした、和風スチームパンク・ファンタジー。主人公のユキコは16才の少女で、過酷なディストピアである帝国と、その忠実な臣下である父親との葛藤のなかで、伝説上の生物グリフォンと出会う。やがて彼女は「ブルウ」と名付けたそのグリフォンとともに世界に立ち向かっていく、というようなストーリーです。
私は原作を知らなくて、なおかつここに邦訳されている上巻までしか知らないので、今後どうなっていくのかは分かりません。が、動と静でいうとこの本の少なくとも前半部分は「静」です。とにかくディストピアであるシマ帝国、そして首都カイゲンの空気が様々な視点から、手を変え品を変え、緻密に描かれている。時に設定の枝葉を辿ったり、あるいはユキコの過去を行きつ戻りつしながら、ゆったりとしたペースで進んでいくので、初めはじれったく感じるかもしれません。特に、『ニンジャスレイヤー』における情景描写の圧縮率と、物語が展開するスピード感を比べると全然違う。
ただ、中盤から激しい「動」の描写があり、まさしくストーリーが動き始めると、「静」で積み上げてきたものが生きてきます。ある事件に際して、まずありありと情景が目に浮かぶ。そのうえで、この世界ならこうだろう、このキャラクターならこう動くだろう、というのがすとんと腑に落ちる。ここにまずカタルシスがありました。そうなると、次はどうなるんだろうという感じで、先が気になってどんどん読んでしまう。
和風スチームパンク、というのは確かにキャッチーな世界観だけれども、物語全体のモチーフとしてはもっと色々な作品が透けて見えてきます。古今東西、動物と少年少女が心を通わせて世界に挑むエンターテイメントはいろいろありますが、その延長線のひとつという感じ。『もののけ姫』のような、ある種ステレオタイプな人間vs自然の構図もあるし、ディスコミュニケーションを勇気で乗り越える様は『ヒックとドラゴン』のようでもある(ブルウをたびたび猫に喩えるところも似ている)。
あるいは、ユキコとブルウの関係性をフジキドとナラクのそれと捉えると、『ニンジャスレイヤー』との共通点も見えてきます。ユキコあるいはフジキドは、この世ならざる存在とたった一人心を通わせることができるがために、相対する人間たちの犯す罪との間で悩み、それでも人間性を捨てきれず、運命に逆らっていく。その意味で、ニンジャスレイヤー翻訳チームが『ストームダンサー』の翻訳を手がけたというのは、とても自然で、かつ意義あることのように思えます。両者は出会うべくして出会った。
この邦訳作品が発表されたとき、そしてTwitter上で「試し読み」として冒頭のいくつかの章が公開されたとき、翻訳チームは翻訳ができたんだ!という意味不明な、かつ超失礼なコメントがまず浮かびました。Kindleには英語版の原書があって、なおかつ冒頭部分がサンプルとしてダウンロードできます。
Amazon | Stormdancer: The Lotus War: Book One (Lotus War Trilogy) [Kindle edition] by Jay Kristoff | Science Fiction, Fantasy, Mystery & Horror | Kindleストア
https://www.amazon.co.jp/dp/B008XKBUUS/
読み比べてみると、情景描写については原作の通り丁寧に、セリフやアクションに関しては大胆に、とても巧みに訳されているのが分かります。地の文で書かれていることも積極的にセリフ扱いに変更されていて、すっと入っていける。英語ではいまいちよく分からない、キャラクターによる口調の使い分けもいいですね。
原書の表紙では、例によって「濃い」アジア人風のビジュアルであるところのユキコも、toi8さんのイラストはしっくりくる。ティピカルな戦う強い女の子像が単純にかっこいいです。一方で、マサルやカスミといった大人のキャラクターのイラストはいまひとつピンと来ないところもあって、これはソフトな絵柄ゆえにというか。
読んでみて我ながら意外に思ったのは、わりと年齢的に近いせいか、カスミやマサル(ユキコの父親)のほうに感情移入してしまったことです。主人公はあくまでもユキコなので、作中では彼女の物事に対する考えかた…つまりは子供らしい純粋さとか潔癖さというものが、「大人たち」の凝り固まった意見と激しく対立する場面が繰り返し描かれる。私が10代のころにこれを読んでいたら、もしかしたらもっとユキコのほうに過剰に肩入れしてしまい、それぞれのキャラクターに対してまた違う印象を持ったかもしれないなと思いました。
さて、この上巻までを読んだところ、まだまだ物語が動き始めたばかりというイメージなのですが、実際、次の下巻である程度のカタはつくのかな?翻訳チームの杉さんによると、「下巻は、ディストピアなりに割とほのぼのしていた上巻からうってかわって、かなりブラッディです。終盤はそれまでのタメが一気に爆発するカタルシスがあります。」(【日報】「リフォージング」と「ストームダンサー」が好評発売中、そしてレディオで言い忘れたこと|ダイハードテイルズ|note)とのことなので、期待してしまう。
そして『ストームダンサー』の面白いところは、すでに英語圏のレビューがたくさんあることですね(『ニンジャスレイヤー』はなぜないのかという疑問はこの際置いておこう…モーゼズ=サンのプリンターが壊れているからだよ!)。ユキコやブルウ(Buruu)を描いたファンアートもちらほらある。YouTubeなんかを検索すると、女の子が作品の良さを熱く語っている動画レビューが出てくるのも面白いです。こういうヤングアダルト向け?ファンタジー小説って、海外では女性読者が多いのかなあ。
YouTubeには、『ストームダンサー』第一部より第11章「アラシトラ」をテーマにしたサウンドトラックもありました。Jay Kristoff氏本人のアカウントで公開されていて、Twitterでも言及があることから、原作者公認と思われる。素晴らしいです、これ!
「アラシトラ」の章は本作中でも物語が最も盛り上がる場面のひとつなので、この音楽は非常に高まりますね。ちなみにクリストフさん、自ら右腕に「嵐の踊子」のいかついショドーのタトゥーをされていて、そのときの様子もブログに詳細に書いています。スゴイ。タトゥーは作中でも大きな意味を持っています。
11-11-11 | Jay Kristoff - Literary Giant
https://jaykristoff.com/2011/11/29/11-11-11/
これも検索していて見つけた、クリストフ氏が2012年のインタビューで答えている創作観にとても共感したので、こちらも引用してみます。「あなたはハッピーエンドを信じていないというが、これは"Lotus War"三部作のエンディングを示唆しているの?」という質問に答えて曰く。
In my opinion, victory without sacrifice is meaningless. I want my readers to be afraid for the characters they love. There are no certainties in life. No guarantees everyone will live happily ever after. Good fiction is the same.
No-one is safe.
この作品観、良くないですか?私はこのリアリスティックな考えかた好きだし、この『ストームダンサー』(と続く"Kinslayer"と"Endsinger"からなるロータス戦記三部作)において、誰が死に、誰が生き残るかというのが鍵になるのかなという感じはします。とっても楽しみ。
下巻が発売されたら、また読んでレビューを書いてみたいと思います。
ミニマルゲームの美しさ『Expand』と『Flywrench』
Steamのオータムセールで買った2本のインディーゲームがどちらも素晴らしかったので、それについて書きます。
Expand(イクスパンド)
ExpandはChris Johnson氏による2015年9月発売のゲームで、ジャンルとしては「過剰にエモーショナルな」インタラクティブ迷路アクションという感じ。収縮・拡大する円環上の迷路のなかを、ただのピンク色の四角形であるところの自機を操作して、潰されたり赤い部分に接触するのを避けつつ進んでいきます。とにかくゲームデザインがメチャクチャ美しくて、一瞬で好きになってしまった。
難易度はそんなに高くないものの、いわゆる死んで覚えるゲームなので頻繁にリトライを繰り返す形になる。装置が全力で自機を殺しにくるため、脱出を阻む地形システム全体が敵というようなイメージです(そこだけ抽出すると、Portalとかにもコンセプトは似ている)。グラフィックはのっぺりしていますが、機械、歯車、そういったものががっちり組み合わさって動くメカニカルな仕組みが好きな人は、きっとハマれると思います。
ストーリーはまったくなく、無機的。なのにとても感情に訴えてくるのは、間違いなく音楽による効果が大きいです。わりとこういうデジタルライクな2Dゲームにつく音楽って、単純にピコピコしたものが多いわけですが、Expandの音楽はピアノとエレクトロニクスによる有機的な音楽。それも、完全にゲームの動きに連動して鳴る。
作曲しているのはChristopher Larkinというオーストラリア人の音楽家で、私はすごく気に入ってSteamでサウンドトラックも買ってしまいました。ちなみに、Steamでサントラを買うとゲームのアップデートが始まって、終わったらSteamディレクトリ配下の /SteamApps/common/Expand/Expand_OST に格納されています。mp3とflac両方ある。
四角形が主人公のナラティブなアクションゲームというとThomas Was Aloneなどがありますが、あんなに説明しなくて、純粋に映像と音楽の双方向の「体験」だけで感情を揺さぶってくる。そういう意味では、ICOとかJourney(風の旅ビト)とかのほうが近いです。今年遊んだ中では、ABZUに次いで2番目に好きなゲームでした。
全4ステージ+最終ステージで2時間もあればクリアできる。場所によってはシビアな操作が要求されるため、たぶんコントローラーが必要です。
Steam:Expand
http://store.steampowered.com/app/399780/
Flywrench(フライレンチ)
FlywrenchもほぼExpandと同時期、昨年2015年8月に発売されたアクションゲーム。開発はカリフォルニアのゲームスタジオMesshof。Downwellを作ったもっぴんさんが以前からTwitterで絶賛していて、気になっていました。難しいけど、確かに超面白かった!
宇宙をモチーフに、謎の白い空飛ぶレンチを操作してゴールへ導くアクションゲーム。重力があるため、落ちないようにボタンを押すとペコっと折れ曲がってジャンプみたいな動作になる。押し続けると赤く、別のボタンを押すと緑になり、同じ色のゲートを通り抜けたり、スイッチを押したり。そして、ひたすら死にまくる!数秒、時には1秒未満で死にまくり、死んで死んで感覚を掴んでいく。このブログで過去に紹介したゲームだと、VVVVVVに似ています。
1282回のミニマルな再挑戦『VVVVVV』 | EPX studio blog
http://www.epxstudio.com/blog/2013/1209_a-thousand-of-death-in-vvvvvv.html
で、難しいんだけど、延々と繰り返していくと必ずコツが掴めてくるのです。こんなの無理でしょと一瞬思ったとしても、「あれ、今いけそうだった!」という場面が必ず来て、そのうちにただの1回の奇跡のようにして乗り越えられる。この、「諦めない限りは乗り越えられるハードル」を出してくる順番がというのが上手くて、これはまさにレベルデザインの美しさですよ。良いゲームは、ただプレイヤーを殺そうとするんじゃなくて、全力でおもてなししてくれるんですよね。
もっと言うと、Flywrenchの絶妙な動きとそれを操作する楽しさはどうも動画だけでは伝わらない。ぜひ実際に動かしてみてください。近いのは、ファミコンのバルーンファイトです。あれのもっとバリエーションがある感じで、レバーを入れるタイミングとかボタンの長押しによって、挙動が全然変わってくる。
3秒とか10秒とかいう短いスパンの面クリアを、ものすごい勢いでミニマルに繰り返していると、だんだんキマってきます。脳がジワジワする。流れるようなせわしないアニメーションも気持ちいいんだけど、これにはきっと音楽の作用も大きい。Flywrenchの音楽はドラムンベース、ジャングル、フットワークなどのめちゃくちゃカッコいいベースミュージック。Om UnitやMachinedrumも参加しているサウンドトラックは、アルバム形式でGoogle Play MusicやApple Musicでも聴けます(Flywrenchで検索)。私はKnife Cityの"King Noah"という曲が好きになりました。
ステージは、1エリア20面前後で構成された「惑星」を冥王星から順に、太陽を目指して攻略していく感じで進む。4時間くらいプレイしてようやく水星をアンロックしたところで、ここから先が詰まりそうな感じ…。ステージエディタもあって、例によってSteamコミュニティのワークショップ機能で共有できます。けっこう簡単に作れるけど、実際に面白いステージを作るのは難しい。奥が深く、まだまだ楽しめそうです。
Steam:Flywrench
http://store.steampowered.com/app/337350
インディーゲーム、探していくと面白い作品はいくらでもありますね。