トン・コープマン オルガン・リサイタル
バッハを聴き始めたころからの夢だった(といっても自分の場合ここ10年足らずの話ですが)、トン・コープマンさんのオルガンコンサートに行ってきました。6月21日、場所はミューザ川崎シンフォニーホール。以前ここで松居直美さんの弾く「フーガの技法」を聴いたことは当ブログにも書きました(松居直美「J.S.バッハ:フーガの技法」@ミューザ川崎シンフォニーホール | EPX studio blog)。
コープマン氏は言わずと知れたバロック音楽およびバッハ研究の大家で、特にカンタータや鍵盤楽曲の充実度は群を抜いており、どの盤を聴いても信頼感があります。YouTubeなど動画メディアでの露出も多く、学者然とした気難しそうなひげもじゃの風貌のわりに、アクションが大きくなんだかチャーミングなおじさんがいたらコープマンかもしれません。
今回の来日プログラムはブクステフーデ、スヴェーリンク、ダカンそしてJ.S.バッハなど。馴染みのない曲も多かったので、事前にGoogle Play Musicでプレイリストを作って予習しておきました。ほとんどの曲についてコープマン本人の録音があって、改めてGoogle Play Music便利だなと思いました。これ、バラバラの曲をCDで集めようとなったら本当に大変だ。
ミューザ川崎は平日夜でしたがほぼ満員の様子で、さすがに客層も老若男女幅広く。相変わらず壁一面を支配するパイプオルガンの存在感は圧巻で、照明が落とされてスポットが当たると余計に金色に浮かび上がって、宇宙空間のようでした。
コープマン氏の演奏は、映像で観るよりももっとダイナミックで、激しいものでした。1曲目のブクステフーデのトッカータ ヘ長調 BuxWV157からすごい勢いで飛ばす。なんというか、各声部がバッチリ分かれて聞き取れるような整然とした、あるいは神聖さを感じるような重厚な演奏では全然なくて、スピードに乗ったフレーズが塊になってぶつかってくる感じ。圧が凄かった!
おそらくああいうタイプの演奏は好みが別れるところなのでしょうが、私はその人にしかできない、その人の体内の肉体的リズムが湧き出てくるようなものをクラシック音楽のライブ演奏に求めているので、とにかく圧倒されました。本当にコープマンがこの場所で弾いているんだ…という。なんか、バッハが400km歩いてブクステフーデの演奏を聴きに行ったなんていうのが遠い昔の話で良かった。来てくれるんだものね。
今回初めて知って気に入った曲が、L.-C.ダカンの「イエスがクリスマスにお生まれになったとき(Quand Jésus naquit à Noël)」という曲。軽快でかわいらしい変奏曲ながら、鍵盤の引き分けでポップな音と重厚な音が交互に現れて、オルガンらしいバラエティ感が楽しめます。
そして、なんといってもプログラム最後のパッサカリア BWV582。この曲本当にバッハの魅力が凝縮されている点が大好きで、初めて生で聴くことができて感動しました。低音で現れる主題が20回の繰り返しの変奏を経て、フーガとして際限なく拡大してゆき、しかし最後にはひとつところに収束するという美しさ!人間誰もが追い求めて成しえない完全美を、音楽という理想世界で実現してみせたバッハのすごさを感じるのです。それが爆音として空気を振動させて伝わってくる説得力ですよね。
アンコールはドメニコ・スカルラッティのソナタK328、バッハのBWV639(大好きな曲だ)、カバニリェスの第2旋法によるティエント。拍手による求めに何度も出てきてアンコールに応じるコープマンさん、演奏から感じる厳格さや凄みとのギャップがあって、やっぱりどこかチャーミングでした。
来週は同じミューザ川崎でコンサート参加者を対象にした特別講義があるとのことで、これにも行ってみる予定です。ともあれ、念願叶いました。