『ザ・ウォーク』
3Dで映画『ザ・ウォーク』を観てきました。実在人物で現在もご存命の曲芸師、フィリップ・プティによるワールド・トレード・センタービル屋上での綱渡り事件を題材にした映画。おもしろかった。
以前、ドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』を観て、このエピソードにはいたく感激したものです。なにしろ、命を懸けたこんな無謀な挑戦に意味はないことをあっさりと認めたうえで、「だから」やるという狂気は、芸術家の態度そのものだと思ったから。発案から実行までの思い切りの良さや独創性、美しさ、さらにはもはや誰にも再現不可能という意味でも唯一無二の試みだったわけです。
『マン・オン・ワイヤー』は、その狂気に第三者的な視点から迫る作品だったけれど、『ザ・ウォーク』は常にプティの視点、もっと言えばTPS的な視点から追体験することを主眼とする作品でした。まず前提として、本作は大画面で3D映画として観ないと意味ないです。『ジュラシック・ワールド』とか以上に、いい意味で「アトラクション」でした。
ただ、映画としてどうかというと、ちょっと期待していたものと違ったな。初めに危惧していたのが、そもそもこの逸話自体がとてもウソっぽいというか、にわかに信じがたい成功譚ではあるので、普通にフィクションとしてドラマ化してしまうとそのままウソっぽくなってしまうのではないかということ。変な話、たいした挫折も経験することなく、次々に協力者に出会って次々にコトが上手く運んで、さらっと成功させてしまうのです。その意味では、観ている最中は特に違和感を感じさせることなく画面にすっと入っていけるので、脚本や役者さんの演技が上手いのだなあと思いました。
形式として、冒頭からプティ役の主人公の回想に基づくモノローグと並行して展開するので、思ったこと感じたことを全部洗いざらいナレーションで喋っちゃうんですね。そこは、想像させる余地を残してほしかった…。
実在人物を元にした再現ドラマという意味では『アメリカン・スナイパー』とかも近いと思うんだけど、史実に敬意を払い、極端な誇張や改変は行わないようにしようという誠実なスタンスは見て取れる。それでもやはり、完全なノンフィクションと比較すると重みがなく、軽い印象になってしまうというか。そこを超えてくるものが見たかった。
良かったのは、ツインタワーという象徴的なモニュメントに対して、押しつけがましいメッセージや政治的な思想を重ねてこなかったところですね(長いラストカットで何らかの暗示はしていたにせよ)。プティの犯罪は、ひとりの芸術家がやりたいと思ったからやった、ということ以上でも以下でもないことで、それゆえに美しいことなので、そこに後付けの意味を持たせようとしなかった点は強く支持できます。
それにしても、ずっとそこにあって、今まさに撮ってきたようなツインタワーのさりげない現実感に、VFXのすごさを改めて感じたり。いかにもCGっぽいところは、意図してそういう演出にしているわけで、そうではないところもほぼすべてCGだったんだなあと思うと。3Dで観ておいてよかったなとこれほど高いレベルで感じた作品は、本作が初めてかもしれません。
これに先立って『オデッセイ(The Martian)』も3Dで観たのですが、それについては、いま原作小説を読んでいるところなので、読み終わったらまたなにか書きます。