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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015

クラシック2015-05-10 21:32

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連休の2日から4日にかけて、東京国際フォーラムでのクラシック音楽祭、LFJに行っていました。考えたら私は去年は行っていなくて、当初はさほどラインナップに期待してはいなかったんだけど、いざ有料公演プログラムが公開されたら、今年は特に聴きたいコンサートばかりでした。
開催11年目ということで、これまでのような時代や作曲家縛りのテーマではなく、「パッション」というようなユニバーサルなテーマをもとに、幅広く取り上げていく方針に変わったようです。なので、古楽のコンサートもたくさんありました。もしかしたら、09年のバッハ特集以来かもという規模で。

本当はもっと行きたかったのだけど、絞りに絞って6公演。結果的に全部バッハになってしまって、せっかくの音楽祭なのだからもっと色々聴きたかったなとか、贅沢な悩みを。チケット、単体のコンサートに比べて安いとはいえ、普通に手数料込みで5,000円超えるのとかもあって、そうそう端から買えるわけじゃないしね。
ちなみに、チケットに関しては例年通り会員向けの先行で購入しました。しかも、2月に応募した抽選が全部当たってしまったので、それを基準に日程を組む感じで。

というわけで、行ったコンサートについての感想メモです。

鈴木優人指揮、バッハ・コレギウム・ジャパン/
J.S.バッハ:マタイ受難曲 BWV244

今年は受難節コンサートに行けなかったので、去年のミューザ川崎以来のマタイ。鈴木優人さんが、初めてBCJの合唱とオケを指揮するマタイとのことで、古楽ファンの注目も高かったのではないかと思います。
オルガンで通奏低音弾き振り。基本はすごく端正な指揮で、聴いているほうも手の動きで声部が聴き取りやすく感じるくらい。Sind Blitzeとか、ところどころでは立ち上がって激しいアクションでオケを率いていて、迫力がありました。

エヴァンゲリストのマンメルさん、どうしてもゲルト・テュルクと比べられてしまうのはかわいそうかな。ソプラノのドロテー・ミールズが素晴らしくて、Aus Liebeが本当に美しかった。休憩挟んで3時間があっという間。
鈴木優人さん、小6とかの自由研究で既にマタイ受難曲について書いてたとかで、そういう息子さんが、父の作ったオーケストラを指揮して初めてその曲を披露するというドラマチックな機会に立ち会えたのは、嬉しかったな。優人さんがいる限りBCJと日本のバッハファンは安泰という気がする。

マタン・ポラト(ピアノ)/
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988

病欠で来日できなくなったシュ・シャオメイの代替公演。イスラエル出身の若手ピアニストとのことで、楽しみにしていました。が、自分の好みとはちょっと違う感じで、やはりゴルトベルク難しいんだなあというか、十人十色なのかなと。第13、15、25変奏みたいな遅い曲だけリピートありで、勢いをつけて50分で駆け抜けた。解釈の面白い箇所も無くはなかったけど、いかんせん演奏が荒削り…率直に言ってミスが多すぎて厳しかった。

ピアノのゴルトベルクってそんなに聴かないんだけど、例えばマシンのように正確無比なトリスターノとか、2周めで積極的に装飾音を足してくるシェプキンとか、何かしら際立った強みがあればおもしろいのかな。そう考えるとやはりシュ・シャオメイ聴きたかった。

ミシェル・コルボ指揮、ローザンヌ声楽・器楽アンサンブル/
J.S.バッハ:ヨハネ受難曲 BWV245

2日目に行ったコンサートはこの1公演のみ。いやーこれは凄かった…。5,000席あるホールAの5列目という席で、凄いものを聴いてしまった。私これまでコルボの作品ってCDでもまったく聴いていなくて、それだけに先入観もほぼゼロの状態で臨んだのだけど、合唱の次元がまるで違うというのが素人にも一発で分かった。最初のHerr!だけで!

またエヴァンゲリストがとんでもなく上手くて、陶器のように繊細な響きでありながら太く芯の通った声で、まったく非の打ちどころなし。配布されたプログラムにソリストの名前が出ていなかったのだけど、ローザンヌ声楽器楽アンサンブル(EVL)のサイトに一覧が掲載されていて、それによると以下の通り。

Marie Jaermann, soprano
Jean-Michel Fumas, contre-tenor
Tilman Lichdi, Evangeliste, arias, tenor
Farbice Hayoz, le Christ, baryton
Manuel Rebelo, Pilate, arias, baryton

コルボさんは何とも言えないたたずまいで、足を引きずりながらも休憩なしの2時間、ほとんど椅子に腰かけずエネルギッシュに指揮をしていました。こうして聴くとヨハネはつくづく聴きどころばかりで、一瞬たりとも逃せない緊張感がありました。それが劇的に極大になってなだれ込むのがRuht wohl、続く終曲のコラールで、このくだりは感極まりっぱなしで。私はクリスチャンでも何でもないけれど、ほとんど宗教的体験のようでした。不完全な人間の営みを通して、完全な神性を、完全な音楽によって表現したのだなあ。バッハは本当に偉大だ。

終わっても拍手が鳴りやまず、数度のカーテンコールを経てオーケストラがハケたあと、再びコルボさんが現れると、観客が寄って行って大喝采という。あんなスタンディングオベーションは初めて観た。なんかこんな機会もうないかもしれないし、このコンサートを聴けたことはずっと残るだろうな。深く感動した。

バッハ・コレギウム・ジャパン/
J.S.バッハ:カンタータ「神の時こそいと良き時」 BWV106、
カンタータ「天の王よ、よくぞ来ませり」 BWV182

LFJ3日目はBCJの教会カンタータから。Actus Tragicusこと106番と182番、どちらもリコーダーが印象的な曲です。106番はめちゃくちゃカッコいいのが第2曲の合唱とソプラノの掛け合いで、「これは古き契約:人間よ、死ぬべきである!」と繰り返す呪術的な響きのある厳格なフーガに対して、「そうだ!来い!来い!」って歌う、ものすごくパンクな曲なんですよね。この日は2日前のマタイで活躍したドロテー・ミールズが再びソプラノを。

182番は第6曲のテノールのアリアで、通奏低音のチェロ懸田さんとオルガン優人さんの息の合った掛け合いが印象的でした。楽しんで演奏している感じが伝わってきた。

鈴木雅明、鈴木優人、バッハ・コレギウム・ジャパン/
J.S.バッハ:2台のチェンバロのための協奏曲 第2番 ハ長調 BWV1061、
フーガの技法 BWV 1080よりコントゥラプンクトゥス 12a,b/13a,b、
2台のチェンバロのための協奏曲 第3番 ハ短調 BWV1062

鈴木雅明さん、優人さんの親子2代による2台チェンバロプログラム。昨年、BISからまさにこのコンビによる同曲の録音(「2台のチェンバロのための協奏曲集」)が発表されたばかり。このコンサートも、幸運にもホールCの3列目ど真ん中というありえない席で鑑賞することができ、お2人のアイコンタクトや表情が間近で見られて感激でした。

基本は雅明さんが合図を出して、優人さんとオーケストラがそれを追うような形。面白かったのが、2台のチェンバロがよくあるような向かい合わせの配置ではなく、同じ向きで並んでいたこと。前半、背中を追うようにしてやっていたのが、途中で位置を交代したために、優人さんが振り返りながら合わせていた。
それにしても、お2人とも軽々と弾くんだけど、並んでいるとやっぱり特徴というか味が全然違っていて楽しかったです。先ほどのコンサートの、死を想うシリアスなカンタータに対して、生命力とダンスにあふれた明るい協奏曲。

協奏曲の間に演奏したフーガの技法のコントラプンクトゥス12と13(a3)=鏡像フーガは、2台のチェンバロのみで正立形と倒立形を順番にやって、まさに攻守交代という試み。すごく良かった。まるっきり親子のキャッチボールを見ているようでした。

2台チェンバロ協奏曲第3番の原曲は、有名な、2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043。これも同じ音型のバトンを渡すようなコミュニケーションがすごく楽しい。やーいいですよねこの曲。2台チェンバロものはコープマンと奥さんのティニ・マトーもやっているし、家族ならではの呼吸の合いかたみたいなのはあるのかも。

鈴木秀美(チェロ)/
ガブリエリ:7つのリチェルカーレ
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011

有料公演のラストは、今年のLFJ全体で最後のプログラムでもある、秀美さんのチェロ独奏。渋い。ガブリエリの作品は、チェロという楽器の限界に挑むような実験精神にあふれていて、崩れるか崩れないかギリギリのラインを行く美しさがありました。また、バッハの5番は無伴奏のなかでも特に好きな曲なのですが、生で聴くのは初めてで感激。
チェロって、身体全体に密着させるせいか、すごく肉体的な楽器だなと思った。息遣いから考えていることのすべてまでが、音となって出力されるような、ダイナミックな魅力がある。そしてまた、音が減衰して消えていく瞬間がすごく美しい楽器なんだなあ。

アンコールは無伴奏4番のサラバンド。明るく幸せな気分になる最後の1曲でした。

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有料公演以外で

3日目は、コンサートが昼から夜遅くにかけてバラバラに取ってあったので、間がわりと空く感じになり。せっかくだし、国際フォーラム以外の会場でやっているフリーのコンサートも観てみたいってことで、東京駅をぶらぶらして、たまたま近くの地下広場でやっていたヴァイオリン、チェロ、ピアノの3人による、ピアソラをテーマにしたミニコンサートを聴いてきました。桐朋学園のOBの方々だったみたい。お客さんもたくさん集まっていて、なかなか雰囲気がよかった。

それから、国際フォーラムのホールDでは映画や講演会なんかもやっていたんだけど、夜には、2009年LFJを題材としたバッハのドキュメンタリーを観ました。コルボ&ローザンヌ、雅明さん&BCJほかのリハを含めたコンサート映像をたっぷり観て満足。この年、私まだバッハの宗教曲までは全然手が届かなくて、この公演はいずれも行けなかったので特に嬉しい。マタイを振り終えた直後の雅明さんのインタビューが面白くて、すごく興奮状態で、インタビュアーの人も合わせて純粋にバッハファンになっちゃってるのが。

今年は屋台村で買い食いも存分に出来たし、お祭りとして楽しかったな。この路線で行くなら、来年もまた参加したいなと思いました。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」2015公式サイト
http://www.lfj.jp/lfj_2015/
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