『シュガー・ラッシュ』
ディズニーによるCGアニメ映画『シュガー・ラッシュ』を観ました。ちょっと忘れちゃったんだけど、だいぶ前にTwitterでフォローしている漫画家だかアニメーターのどなたかが絶賛していて、そのうち観るリストに入れていたもの。
ツタヤディスカスを利用していると、ウィッシュリストがそのまま上位から順に送られてくる定額リストになるので便利ですね。DVDが郵送されてくる、というフロー自体が今どきアレな点は別として…。
で観たんですけど、良かったです。
筋書きとしては、おおよそテンプレートに沿ったシンプルなもので、架空のビデオゲームのなかの悪役が、自分もヒーローになりたいと言い出して奮闘するというお話。パックマンやソニック、ストIIのザンギエフなど、実在のゲームのキャラクターが多数登場して、ゲーム機の裏側にある世界がかわいらしく描かれる…というだけだと、ふーんって感じになっちゃうのが難しいところで。全然そういう、つまりオールスターの企画もの的なやつじゃなくて、往年のビデオゲーム文化への真摯なリスペクトが感じられる、オリジナルな作品でした。そして大元の設定がかなり大雑把とはいえ、これだけ入り組んだ複雑なプロットを、よくぞこれだけシンプルに見せたというか。
様々なゲームの悪役キャラが集まって、グループカウンセリング的なセラピーをやっている冒頭のシーンからして、既に現代的で面白いんだけど、これって結局大人向けの作品なんですよね。将来は何者にでもなれるという子供のためではなくて、既にある自分を肯定しようという。そのための題材がビデオゲームというのもまた、例えばこれ、60代より上の人が観てもまったく意味が分からないと思うし、ゲームを全然知らない文化圏の人が観ても同じように通じないと思う。かつてゲームキッズだった大人ための作品。
ありがちなことに、邦題が良くないんです。なんで変えちゃうんでしょうね。現代は"Wreck-It Ralph"で、これは主人公ラルフが悪役を務めている作中のゲーム"Fix-It Felix"の裏返しで。そこに意味があるのにー!善玉と悪玉、創ることと壊すこと、という二律背反のなかにアイデンティティを見出すお話なのに。「シュガー・ラッシュ」というのも作中のゲームタイトルからなんだけど、こっちは単に舞台なので、別にテーマには意味的にかかってない。
これは一事が万事で、たとえば冒頭の悪役セラピーで出てくるフレーズで、クライマックスでも効果的に使われる印象的な一節がある。これ、good/badの対比を巧く使った詩的な表現で、日本語訳だと全然良さが伝わらないので、これはほんと英語版で。単純だけど沁みるんだ。
I'm bad, and that's good. I will never be good, and that's not bad. There's no one I'd rather be than me.
あとけっこう驚いたのが、子供向けのディズニーなりの配慮なのか、吹き替えだと映像も差し替わるんですね。英語の看板だとかが、ご丁寧に日本語フォントになっていて、それはまあいいんですけども、ヴァネロペがラルフに贈り物をする場面で、たどたどしい手描きのメッセージだからこそじーんとくるシーンなのに、業者が作ったみたいな日本語フォントになってて、ああもうみたいな。吹き替えの声優さんがすごく良くて、特にオリジナルだと良くも悪くも花沢さんばりのダミ声のヴァネロペちゃんが、単純にかわいくて表現力も豊かなキャラになっているのがハマっていただけに、いろいろと惜しい。
和訳でいえばもうひとつ、そのヴァネロペというキャラにプログラム上の欠陥があることがお話のキーになっていて、それをオリジナルでは"glitch"と表現しており、映像的にも「グリッチ」が効果的に使われている。このグリッチって、まだそんなに一般に浸透していると思えないし訳すのは難しいと思うんだけど、字幕も吹き替えも日本語は「不具合」になっていて、なんか違うというか、笑っちゃった。せめて、バグってるとかのほうが通じるのにね。
そういうようなことは抜きにしても、ほんと良い作品でした。続編の話もあるみたいだけれど、これはテーマがこれ以上ないくらいに簡潔にまとまっていて全てが必要十分で、むしろ続編はなくていいです。同時に、ゲーム大国である日本でこういう作品が生まれなかったのは、なんだかもったいないし、でもやっぱ何年経っても生まれなかっただろうなという。ディズニーすごいよね。
シュガー・ラッシュ | ファンタジー・アドベンチャー | ディズニー映画
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