想像力の迷宮『パンズ・ラビリンス』
『パシフィック・リム』にハマって以来(パシフィック・リム(2回目) | EPX studio blog)、ギレルモ・デル・トロ監督(Wikipedia)の作品を立て続けに観ています。
そういえば、パシリムに関しては角川から出ているノベライズ版もKindleで読みました。映画に忠実な内容で、かつ本編で触れられない設定についても言及されており、むしろこの詳細な設定や描写をよく映像化したなぁと改めて感心してしまう。ちょっと高いかなとは思いつつも、おすすめです。
先月は『ヘルボーイ』(2004年)を。パシリムのハンニバル・チャウ役で、ものすごい存在感のあったロン・パールマンが主演の、アメコミヒーロー映画です。これは普通によくできたB級ダークヒーローもので、特にこういった内容に興味のない自分でも楽しめた。ナチスが極秘裏に呼び出した悪魔の子が成長して、現代にやってくる悪い悪魔を銃と腕力でボコボコにしたうえで、ヒロインを救うみたいなやつ。というか、そのもの。ありきたりではあるのだけど、美術やCGが素晴らしく、音楽も良くて見入ってしまった。全体的にすごく完成されている作品という印象でした。
続いて、その続編である『ヘルボーイ:ゴールデンアーミー』(2008年)。前作がわりとキレイに丸く収まったのでどうするかと思ったら、まったく違う切り口で意表を突かれた。前作がいわばSFアクションとすれば、こちらは直球のファンタジー映画。しかも、ゴシックでグロテスクな表現を交えつつも、コミカルなシーンを積極的に取り入れていて、よりポップに分かりやすく。クライマックスに出てくるメカや歯車の造形が異常にフェティッシュで、後のパシリムに至る片鱗も見えていたり。相変わらず、ロン・パールマンのコワモテなのに憎めない絶妙なキャラも良いのだけど、この作品ではどうしても半魚人のエイブに肩入れしてしまうな。かわいいやつなんだよ。
そして今日『パンズ・ラビリンス』(2006年)。ここまで、怪獣とか悪魔とか、悪いやつを殴ってドカーンみたいな映画ばかりだったので、この監督のはみんなそういうものかと思っていたら、完全に不意打ち。これは重い。ものすごく重い、美しい映画でした。
タイトルで想像されるような冒険ファンタジーではまったくなくて、ファンタジーを題材にした純然たる悲劇。本好きの夢見がちな少女が、妖精さんに見知らぬ世界に誘われるという古典的な導入部があってこその表現で、しかし、観終わったあとはやっぱりこれがファンタジーだなと思わされた。
舞台はスペイン内戦下、作中では過酷な現実世界の描写が延々と続いていく。けれどもそれと空想の世界とは、戸を隔てた裏表のような関係で、見える人にとってはその入り口はどこにでもある。絶望的な人生において、いかに想像力=イマジネーションが尊く作用するか、また他方、そのイマジネーションが実際にはいかにまったくの無力で、儚いものであるか。それを正直に見せていて、真に迫るものがありました。
ファンタジーとリアリティは決して相対するものなどではなくて、ファンタジーこそリアルでなければならないというのは個人的な持論なのですが、『パンズ・ラビリンス』はまさにそういう内容で、私は全面的に支持できる作品でした。変な話、ファンタジーという括りのなかでは、結末はどのようにでもできたハズなのだけど、敢えてあのようにしたという点に作家の強いメッセージを感じます。消化不良のような感じは少しもない。
もちろん、それもこれも、造形や映像の美しさに基づくもので。ただ、同じ映像美でも、これに比べると『パシフィック・リム』は、地球の命運が懸っているのに死ぬほど能天気な映画だと感じる。どっちが良い悪いとかじゃなくて、片方を撮るような監督じゃないと、もう片方は生まれないんじゃないかと。ものすごくピーキーな、極大の想像力というか。で、この振れ幅があってこそのデル・トロ作品なのかなあと、映画初心者ながらに理解したのでした。