2012年のテクノ
「テクノ」というトピックでは色々書いていますが、なにも私はシーンの動向とか流行だとかを論じるつもりはないのです。体験に基づく印象を書きとめているだけのことも多いし。ただ、そのごく個人的な偏った観測範囲においては、2012年というのは、比較的「昔の音」が戻ってきたなと感じる一年間でした。
様々な見かたがあるかと思いますが、90年代からのテクノらしいテクノは、2000年代の前半に飽和状態を迎えたハードテクノと共に縮小傾向に移り、04~05年くらいにはほとんどのメジャーなアーティストがミニマル/テックハウス的な音に転向しました。ここからの数年間は私にとっては本っ当に退屈な時代で、リリースは全然ピンと来ないし、パーティーでもそう。WIREみたいなフェスにおいても影響は顕著でした。
ここで言うテクノらしいテクノって、分かる人には必ず分かってもらえてると思うんだけど、改めて伝えようとすると定義しづらい。単にBPMとかってだけではなく、音の詰まり方とか重さ、高音の刻みかたに由来するグルーヴが全然違うんですよね。とにかく「あの」テクノじゃないと物足りない。
あと、ミニマルやテックハウスがダメって言うんじゃなくて、あまりにもその変化が右へ倣えだったので、興醒めしてしまったところもあると思います。え、今までの作品は明確なポリシーや表現したいものがあったわけじゃなくて、簡単に流行りで変えちゃうんだ、っていう。なので、あのとき日和ってスカスカな音に転向したアーティストに対しては、未だに恨みがましい思いはあります(誰とは言いませんが私はテクノの恨みは忘れません)。
ところが、去年くらいからじわじわと変化がありました。今年はそれが、あらゆる面で大きく実ったのではないかと思います。RegisやCari Lekebuschの過去作のリマスター&再評価もそうだし、ニュースクール・ハードミニマルと表現されたりもする高品位なBerghain系テクノの台頭もそうだし。なので、一介のテクノファンとしては、ここ10年くらいの間で最も充実した一年でした。
単に懐古趣味ではないなと思うのは、昔よりもずっと可能性を感じるんですよね。以前は確かに、バリエーションに「出尽くした感」のようなものがあって、閉塞的といってもいい状況でした。今はもっとDJもリスナーも視野が広がって、テクノに幅も深さもある。不遇の時代ではあったけれど、多様性を獲得したという意味では、ああいう経緯を経て現在に辿り着いたのは、結果的には良かったのかもしれません。
今年、良かったDJとライブアクトをいくつかピックアップしておきます。
2012年ベストDJ
- DVS1
- 何か月かの間に東京で3度もプレイして、全部聴きに行ったDJって初めてかも。紛うことなきテクノでした。何年もこの音を待っていた!
(AFTER FREEDOMMUNE +1@eleven) - Ben Sims
- ベテランの凄味を見せつけられました。いつも変わらずかっこいい。
(Torque feat. Ben Sims & Audio Injection) - Jesper Dahlbäck
- 短いセットでしたが深いDJでした。elevenとかでロングセット聴きたい。
(WIRE12) - Mike Parker
- ついこの前。作っている音そのまんまの、呪術系テクノでした。
(Vault feat. Mike Parker)
2012年ベストライブ
- Abe Duque
- 衝撃のライブでした。テクノのソロ・ライブの完成形を見た。
(Abe Duque@Galaxy) - Neil Landstrumm
- ずっと昔からの個性を貫いていて感動しました。
(FIERCESOUNDS feat. Neil Landstrumm)