Mike Parkerとハードウェア・テクノ
前回(マシーン・テクノ・リヴァイヴァル)の続き。
先日、Beatportで何気なく見つけてしまったMike Parkerの作品が素晴らしくて、情報を辿っていくと、まさにこの「マシーン・テクノ」の権化のようなアーティストであることが分かった。音的には、キックが太く、サブベースが壁のように厚くて、超硬質なフロア向けの4つ打ちダーク・ミニマル。いわゆるBerghain系と言ってもいいと思うんだけど、音質的に始めから終わりまでPCで作ったようなあの無菌室っぽい不自然なクリアさが皆無で、どことなく生々しい。そこに、存在感のある生き物のような怪しいシンセが、拍をずらしながら執拗に絡んでくる。
まず、私は不勉強にして知らなかったんだけど、Mike Parkerは90年代から活動しているベテランで、露出こそ少ないものの、Oliver HoのLight And DarkレーベルやAdam Jayなんかとも絡んでいるらしい。しかも、活動初期から現在に至るまで、一貫して自身のレーベル"Geophone"を続けていて、最近ではデジタルリリースにも取り組んでいるようです。アメリカはバッファローに住んでいて、本業は大学講師とのこと。
そして、やはり特筆すべきは、その制作スタイル。以下、いくつかの証言。
一つのトラックを作成するうえで彼は何度も何度もリハーサルを行い、その後、ほぼアナログの機器を使いライブで録音、編集もダビングも行わない。
Mike Parker | クラベリア
僕よりも年上だからずっと影響を受け続けてきたのは Mike Parker だね。彼は独身で Buffalo University の先生なんだけど、時代なんて関係ないぶっ飛んだアナログの音楽を作るんだ。
Donato Dozzy Interview
「形式に捕われないテクノの特性は僕にとって魅力的なモノ。絵を描くのと同じ様に、エレクトロニックミュージックを創るのには即興的な部分があり、同じ音が出ることは二度とない。僕の持っているアナログシンセサイザーにはパッチメモリーなどの昨日がついていないので、僕の創る音楽はいつも一からの作業で、この創造という作業は僕の仕事にも似ている。レコーディングも常にとてもシンプルな作業:何度も何度も曲のリハーサルをし、ライブで一発でレコーディングをする。編集もダビングも行わないよ。この手法が僕にとってとても大切なんだ。なぜならとても即興性があり、そこに自分の独自性があるから。」彼のGephoneレーベルにはあのDonato Dozzy、Peter Van Hoesen、Marcel Dettmannなど多数の有名DJのファンがいる。
MIKE PARKER - iFLYER.tv (アイフライヤー)
やーすごいですね。頑固にもほどがあるというか。昔は多くのテクノアーティストが彼と同じ方法でトラックを作っていて、実際にそれがリリースされていたと思うんですが、今やほとんどがDAWなわけで。アナログ機材やハードウェア機材の不利な点が、Ben Simsの例のように音質やマスタリング的な意味での完成度とすれば、この人の場合は、それを自力で乗り越えて、かつ今また時代の波長と重なりつつある(世の中のサウンドがそっちに戻ってきた)例のような気がします。
Bandcampで公開されている"Drain Hum"は、1999年に作ったトラックのリマスター版とのことですが、この迫力!なんですかね、これ。イントロのキックの入りからしてヤバいですね。
Drain Hum | Mike Parker
http://mikeparker.bandcamp.com/album/drain-hum
彼のレーベル、Geophoneがまた面白いレーベルで、アナログ盤でも毎回のプレス数が300~400枚限定。その理由が、ジャケットがスクリーン印刷の完全ハンドメイドなため、それ以上は手が回らないからっていう。検索すると、一応国内のレコード店でも流通しているようではありますが、この数ではね。もうこれ、同人音楽なんですよ。
今年4月に、TEAというテクノ系ウェブマガジンのインタビューに答えた記事があって、この内容がまた素晴らしくシンパシーを感じる言葉ばかりだったので、一部を引用します。元記事、長いけどこの人の哲学が明確に表れていて、すごく読みごたえがあります。
自身の音楽を「ドローン系」と評されることについて。
The one thing I dislike is the word 'drone'. I don't care for it. I think the word 'drone' or 'droning' can be interpreted as being a negative term - as in droning is boring. I don't like it when I read reviews saying drone techno, or droney techno.(中略)There was one person that suggested to me when I played for Octave in Brooklyn recently, that we should call it voodoo techno. I like that, it's better than drone.
TEA: TEA with Mike Parker
ハード機材で曲を作る、ということについて。
I will work with a sequencer and I will modulate that until it sounds right. Sure, there are days where I make nothing but noise, but then on the good days I'll make something that I am satisfied with. Sometimes I'll spend more than one day on a single pattern. If I take a break and come back to it and it is still interesting, then I know it is good. If it doesn't sound interesting after being away from it then I know it's time to do something else.
TEA: TEA with Mike Parker
また、ライブセットをやらないのか、という問いに対して。
I used to get offers to do live PAs and I did a handful of them in the states and it was fine, but it was really difficult and I don't like the idea of transporting vintage analogue gear. My Korg MS-20 is 30 something years old, I don't like the idea of bringing that on the road with me. There has got to be another way for me to do it. I don't like the idea of ableton - it's a wonderful thing - but if I do something I want it to be 100 per cent live. I don't want to take tracks, string them together and throw some things on top. If I was to do a live PA, it would have to be 100 per cent live.
TEA: TEA with Mike Parker
いちいち共感する点ばかり!この人、ライブではないけど2008年に野外フェス「The Labyrinth」にDJとして来日していて、2010年12月にもWarehouse 702のパーティーに出演したらしい。けっこう来てるんですね、知らなかった。
私も経験から実感していることとして、PCだけで完結する環境でテクノを作るのって、ハード機材一発録りのときとまったく感覚が違うんですね。頭で考えて作るというか、つまり、身体を経由しないで手先で作るというか。もちろん、それが悪いわけではなく、器用なアーティストはそれでも素晴らしい曲を作るし、マウスひとつで肉体的なオートメーションを描いてしまう人もいると思うんですけど。
ただそれでも、フィジカルなグルーヴを1小節のループに落とし込む、というテクノにおいては、UIの面で、多くの人にとってはまだハード機材のほうが敷居が低いと思います。で、私自身、そうした理由からハード機材中心の制作スタイルに戻りました。ライブもやるつもりです。
別の記事で、今度はそのイベントの告知をしたいと思います。