3DS LL
本日発売のニンテンドー3DS LLを買いました。特に予約はしていなかったけど、昼ごろ出先のビックで見かけたのでふらりと。以前からいずれ買い替えて、初代は手放そうと思っていました。
無印3DSは、個人的にはあまりハマれないハードでした。ゴツゴツして馴染まないカタチや、結局要らなかったクレードル、うっかり押してしまうPOWERボタンなどなど。何より、バーチャルコンソールのゲームボーイソフトを等倍(ドットバイドット)表示したときの画面の小ささに納得できませんでした。縦が28mmとかですよ。引き伸ばすと、せっかく美しいドット絵がすごく不鮮明になるし。
さて手に取った第一印象は、でかい。そして重い。このサイズのガジェットとしては、けっこう重量感がありますね。文庫本ってよりかはポケットサイズの辞書のような感じ。
ただ、外観やボタンの問題はいずれもデザインの改良により解消していて、純粋にハードウェアとして洗練されたなぁと感じます。ACアダプタを省いたのも合理的。「複数の問題を一気に解決するものがアイデア」とは有名な宮本茂さんの弁ですが、初めからこれで出せば良かったのに、とは思います。重量の懸念はあるにせよ。
で、DSソフトを等倍表示(SELECTかSTARTを押しながら起動)したときの画面サイズが、ようやく、ほぼDSiと同じくらいになりました。GBの等倍表示のときも、実測で43mm×39mmくらい。これなら全然アリかな、と思えます。あとはもうなんか、最近のVCのラインナップにいまひとつ燃えないので、そろそろ『カエルの為に鐘は鳴る』あたりのビッグタイトルをひとつ。スクウェアのRPGもどんどん出せばいいじゃないですか。
ちなみに、旧3DSから全データを「引っ越し」したんですが、だいぶ手順が煩雑でした。iOS端末や、同じゲーム機でもPS3/PSPみたいな、同じアカウントでさくっと引き継げる仕組みに慣れてしまうと、違和感しかないです。時間もかかるし。任天堂ハードの、こう、ソフトウェア面のもっさり感は何とも言えないですね。
ついでと言ってはなんですが、今さらDSのドラクエ9を購入しました。10はまだ考え中。
R-9 Live @ Body Inform 2012-07-22
先日のBody Informで録画したライブ映像を公開しました。音だけライン録り音源と差し替えて、ほぼ無編集のフル尺でアップしています。暗くてよく分からないかとは思いますが、まあ雰囲気はね。
この日は手元のESX-1をマスターに、モノラル2系統の低音パート(主にキックのアタック成分と胴鳴り成分に割り当て)と、ステレオ1系統の中高音パートをパラで出し、かつキーボードパートのシーケンスでSH-201を鳴らして、それらの音を、画面に映ってないTapcoの小型ミキサーに突っ込んでいる感じです。その先にセンドリターンでリバーブと、マスターアウトにトータルコンプをかけています。
実は、音源のほうは編集時にアバウトに補正しているので、当日の鳴りともかなり違うはず。ライブの時はいつもそうですが、ここが欲しいっていう帯域が弱かったり、逆に妙な音が目立ったりして、(サウンドシステムに関わらず)思うようにはいきませんね。家に帰るなり、サウンドハウスでグラフィックイコライザーを検索しました...。リバーブやコンプの設定を含めて、今後もベストなセッティングを探ります。
トラックについては、半分くらいは前回配ったCDやSoundCloud上で発表済みのもの、残りはライブ前の期間で作った新曲です。YouTubeの動画の補足情報にトラックリストを入れていますが、一応こちらにも。
- 0:20 "Giant"
- 4:39 "Pond Cave" (unreleased)
- 9:20 "In Reform"
- 13:47 "Raw Data"
- 17:05 "Soul Jam" (unreleased)
- 23:11 "Bubbles Around The Circuit"
- 26:58 "Oil Blending"
- 31:09 "Basics Of Echo" (unreleased)
- 36:14 "Stride In Shadow" (unreleased)
ESX上のパターンの数で言うと、新たに40くらい書き下ろしていますが、あまり曲順を意識して作っていなかったので、展開に合わなそうな曲は準備の段階で省きました。パターンとパターンを繋ぐパターンも用意しなくてはならないので、展開は完全に決め打ちです。おかげで、意外にも40分きっかりに収まりました。
SH-201は低域をほとんどカットして、飛び道具的に使いました。あと中盤で変拍子の上モノを手弾きしたり。ヨレヨレですが、これ、どうしてもやりたかったんです。身体感覚をダイレクトに表現したかった。ほかに、例によってツマミをグニャグニャやったりもしていますが。
本当はもう1台くらい音源を繋ぎたいです。既にESXでシーケンス組めるチャンネルが空いてないので、シーケンサー内蔵のもので。MonotribeがMIDIに対応していれば、どうにかしたんだけどなぁ、という感じです。
BPMは126でした。昔は140くらいだったわけですが、音的にはそんなに変わってないんじゃないかと思います。基本不器用だし応用が効かないので、これはこれでと割り切っています。もうちょっと、今のスタイルで突き詰めていきたいですね。
Body Informでした
22日、遊びに来てくださったみなさまありがとうございます。当日は、またしても色々なパーティーと被っていたにも関わらず、ハシゴして来てくださるかたや、遠方から来ていただいたかたが多数いて嬉しかったです。残念ながら来られなかったかたにもメッセージ頂きました。また次回、よろしくお願いいたします。
ゲストDJのgommaさんとフミアキさんも、それぞれお忙しい予定を押してオファーを快諾してくれました。そして毎回フロア作りに関して完璧なサポートをしてくださる、茶箱エージさん。それにそれに、帰りに大量の機材とともに自宅まで車で送っていただいたizさん!各位に感謝です。
ライブについては、録画した映像や音源もあるので、また少し別の記事で書こうと思っています。今後もオファーがあれば、積極的に取り組むつもりでいます。詳細は「DJ・ライブブッキングについて」を参照してください。
さて、パーティーとしての「BI」は今後も完全不定期開催で続きます。次は少し間が空く可能性はありますが、その代わり別の展開を考えていて、その一つがCDリリースです。秋のM3に申し込んでいます。これは、今のところ抽選結果待ち。
最後に、少しですが当日の写真を以下にアップしました。上の写真は最後にプレイしたフミアキさん。
2012-07-22 Body Inform - a set on Flickr
http://www.flickr.com/photos/epxstudio/sets/72157630725442632/detail/
明日、Body Informです
なんだかライブやると決めてからがあっという間で、いまひとつ実感が湧きませんが、明日テクノパーティー「Body Inform」開催です。16時スタートで場所は早稲田茶箱、1500円1ドリンク付きでゲストDJにgommaさん、フミアキさん、私もイントロでDJします。くどいようですが詳細は下記の公式サイトで。
Body Inform - 古くて新しい、スタンダードなテクノ・パーティー
http://bi.epxstudio.com/
5年くらいぶりに機材(ハードウェア)ライブ復活します。全盛期ほどのカンが取り戻せたかは分かりませんが、それなりに下準備と練習を重ねてきて、また新たに導入した機材の効果もあり、音的には確実に昔より良くなっているはずです。テクノのライブはみんな再生ボタンを押してるだけなんて揶揄されたりする昨今ですが、再生ボタンどころか、コンソールのほとんどボタンとツマミとフェーダー(と鍵盤)を操作してのライブ・オペレーションです。基本的にソングを組まない一小節ループなので、そうせざるを得ないのです。
昔よく機材ライブのときに思っていたのが、飛行機を操作する感じに近いのかなと。操作したことないんですけども。離陸と着陸が一番難しくて、上昇したり下降したり、稀に墜落しそうになったり、うまく気流に乗れたりとか。事前に飛行ルートは計画していくんですが、その通りに行くのはなかなか難しいところです。
Body Informではテクノの「身体性」をテーマにしていて、そのためにフロアを暗幕で区切ったりとか、マイク入力に反応するアプリをVJに使ったりとか、身体が音に没入しやすい仕組みをいつも考えています。それはDJにおいてもそうなんですが、今回はライブという形で直接的に、フィジカルな動作を音そのものに反映するという原点に立ち返った見せかたをしたいと思っています。
ライブは18:20スタートで、40分間くらいの予定です。前回配布したCDに収録した曲、SoundCloudに上げている曲からも何曲かプレイします。よろしくお願いします。
Beatport DJsとBandcamp
どうも、いまいちブレイクしきれてない機能であるところのBeatport DJsですが、最近のDJチャートを作りました。先日の記事で書いたようにMike Parkerにハマっているので、ブードゥーテクノ成分多めです。他はCristian Vogelのガチのフロア向けツールとか、Ben Klockのリミックスものとかが良かったです。
R-9 Techno Chart 2012-07 :: R-9 :: Beatport
http://www.beatport.com/chart/r-9-techno-chart-2012-07/94152
チャート作り、慣れてしまえばけっこう簡単なので、おすすめですよ。特に、普段からBeatportを利用している人はDJやってる/やってないに関わらずどんどん作って、教えてほしいです。今まではこういう、横のつながりで楽曲を共有する手段が(クラブの現場以外では)なかったので、きっとデジタルならではのタコツボ化がある程度解消できて、面白くなると思うんですが。
で、今回のチャートにあるMike Parkerの"Drain Hum"というトラックは、Beatportでも買えますが、実際には私はBandcampで購入しました。こちらのほうが新しいリマスター音源のため、音質(音量)も良く、ほぼ同価格でflac版もダウンロードできるので。
Bandcampは、個人で開設できる、デジタルコンテンツ専用のダウンロードストアです。決済はPayPalで、売り手も買い手も面倒な手続きは一切必要ないというのが強み。成りすましアカウントとかでイリーガルな音源を売られてしまう可能性にどう対応しているのか、詳しいことはよく分かりません。が、上の例のようにココでしか手に入らない音源などもあったりするので時々チェックしています。私は今回初めて利用しましたが、噂に聞いたとおり超簡単でした。
国内テクノアーティストでは7th Gateさんとかも活用されていて、インディペンデント系の作家はどんどん使ってみてほしいなと。Kuniaki TakenagaさんのDispired Industrialレーベルから出て、一部で話題になったOliver Kuceraによる稲川淳二ネタ怪談テクノのリリースもココでしたね。例えばBeatportと同じものが売ってて、Bandcampのほうがより作家さんの利益になるなら、後者で買いたい。
Bandcampは、投げ銭的な仕組みがあるのも面白くて、買い手が商品の価格に+αする形で、支払う金額を決められます。さっきのMike Parkerのリリースがまさにそうで、2曲入り3米ドルだけども、Buy Nowをクリックすると3ドル以上の金額をマニュアルで設定できる。
余談ですが、既存の流通経路に依るフィジカルメディアでのコンテンツ販売に代わって、無形のダウンロードコンテンツ販売では、こういう少額投げ銭決済が中心になってほしいなと思います。一時期話題になったGumroadとかもそうだし、音楽系クラウドファンディングのPledge Musicとかもそうだけど、そのほうがかえって原始的な形態というか、即売会っぽいというか。ファンとしても、多少なりとも作家の活動を支えたいと考えるのは健全なことのように思います。それはそれで、別の問題も多いのかもしれないけれど。
Body Inform
7月22日(日)夕方、パーティーやります。「Body Inform」の半年ぶりの第3回です。今回も淡々と、良質のテクノ"だけ"をお聞かせできればと考えています。パーティーコンセプトや詳細情報など、上記のフライヤーのリンクの先でたくさん読めますので、参考にしてみてください。
今回は、初回以来のゲストとなるgommaさん、「qualia 2」のリリースもあったFumiaki Kobayashiさんを招きました。フミアキさんは、つい先日発売されたスクウェア・エニックスの「Battle SQ」(※音楽を自動再生します)にも初回盤のリミキサーとして参加されましたね。gommaさんは80分セット、フミアキさんは120分セットをお願いしていますので、がっつり楽しませてくれると思います。gommaさんは最近プレイを聴いていなかったので、どんなセットになっているのか楽しみ!
また、私R-9はハードウェア機材オンリーのライブセットでの参加です。1月に、「Machine Body」というタイトルの7曲入りオリジナルEPを制作しましたが、自分自身その制作過程で得たことや、先の記事で書いたマシーン・テクノ・リヴァイヴァルから受けた影響を、新たにアウトプットしていければと考えています。
先日、写真のとおりAlesisの3630というコンプを買いました。いままさに、いろいろと試行錯誤中です。フィジカルなツマミ、やっぱり楽しいですね。
ってわけで、22日は早稲田「茶箱」に遊びに来ていただけると嬉しいです。
Body Inform - 古くて新しい、スタンダードなテクノ・パーティー
http://bi.epxstudio.com/
Mike Parkerとハードウェア・テクノ
前回(マシーン・テクノ・リヴァイヴァル)の続き。
先日、Beatportで何気なく見つけてしまったMike Parkerの作品が素晴らしくて、情報を辿っていくと、まさにこの「マシーン・テクノ」の権化のようなアーティストであることが分かった。音的には、キックが太く、サブベースが壁のように厚くて、超硬質なフロア向けの4つ打ちダーク・ミニマル。いわゆるBerghain系と言ってもいいと思うんだけど、音質的に始めから終わりまでPCで作ったようなあの無菌室っぽい不自然なクリアさが皆無で、どことなく生々しい。そこに、存在感のある生き物のような怪しいシンセが、拍をずらしながら執拗に絡んでくる。
まず、私は不勉強にして知らなかったんだけど、Mike Parkerは90年代から活動しているベテランで、露出こそ少ないものの、Oliver HoのLight And DarkレーベルやAdam Jayなんかとも絡んでいるらしい。しかも、活動初期から現在に至るまで、一貫して自身のレーベル"Geophone"を続けていて、最近ではデジタルリリースにも取り組んでいるようです。アメリカはバッファローに住んでいて、本業は大学講師とのこと。
そして、やはり特筆すべきは、その制作スタイル。以下、いくつかの証言。
一つのトラックを作成するうえで彼は何度も何度もリハーサルを行い、その後、ほぼアナログの機器を使いライブで録音、編集もダビングも行わない。
Mike Parker | クラベリア
僕よりも年上だからずっと影響を受け続けてきたのは Mike Parker だね。彼は独身で Buffalo University の先生なんだけど、時代なんて関係ないぶっ飛んだアナログの音楽を作るんだ。
Donato Dozzy Interview
「形式に捕われないテクノの特性は僕にとって魅力的なモノ。絵を描くのと同じ様に、エレクトロニックミュージックを創るのには即興的な部分があり、同じ音が出ることは二度とない。僕の持っているアナログシンセサイザーにはパッチメモリーなどの昨日がついていないので、僕の創る音楽はいつも一からの作業で、この創造という作業は僕の仕事にも似ている。レコーディングも常にとてもシンプルな作業:何度も何度も曲のリハーサルをし、ライブで一発でレコーディングをする。編集もダビングも行わないよ。この手法が僕にとってとても大切なんだ。なぜならとても即興性があり、そこに自分の独自性があるから。」彼のGephoneレーベルにはあのDonato Dozzy、Peter Van Hoesen、Marcel Dettmannなど多数の有名DJのファンがいる。
MIKE PARKER - iFLYER.tv (アイフライヤー)
やーすごいですね。頑固にもほどがあるというか。昔は多くのテクノアーティストが彼と同じ方法でトラックを作っていて、実際にそれがリリースされていたと思うんですが、今やほとんどがDAWなわけで。アナログ機材やハードウェア機材の不利な点が、Ben Simsの例のように音質やマスタリング的な意味での完成度とすれば、この人の場合は、それを自力で乗り越えて、かつ今また時代の波長と重なりつつある(世の中のサウンドがそっちに戻ってきた)例のような気がします。
Bandcampで公開されている"Drain Hum"は、1999年に作ったトラックのリマスター版とのことですが、この迫力!なんですかね、これ。イントロのキックの入りからしてヤバいですね。
Drain Hum | Mike Parker
http://mikeparker.bandcamp.com/album/drain-hum
彼のレーベル、Geophoneがまた面白いレーベルで、アナログ盤でも毎回のプレス数が300~400枚限定。その理由が、ジャケットがスクリーン印刷の完全ハンドメイドなため、それ以上は手が回らないからっていう。検索すると、一応国内のレコード店でも流通しているようではありますが、この数ではね。もうこれ、同人音楽なんですよ。
今年4月に、TEAというテクノ系ウェブマガジンのインタビューに答えた記事があって、この内容がまた素晴らしくシンパシーを感じる言葉ばかりだったので、一部を引用します。元記事、長いけどこの人の哲学が明確に表れていて、すごく読みごたえがあります。
自身の音楽を「ドローン系」と評されることについて。
The one thing I dislike is the word 'drone'. I don't care for it. I think the word 'drone' or 'droning' can be interpreted as being a negative term - as in droning is boring. I don't like it when I read reviews saying drone techno, or droney techno.(中略)There was one person that suggested to me when I played for Octave in Brooklyn recently, that we should call it voodoo techno. I like that, it's better than drone.
TEA: TEA with Mike Parker
ハード機材で曲を作る、ということについて。
I will work with a sequencer and I will modulate that until it sounds right. Sure, there are days where I make nothing but noise, but then on the good days I'll make something that I am satisfied with. Sometimes I'll spend more than one day on a single pattern. If I take a break and come back to it and it is still interesting, then I know it is good. If it doesn't sound interesting after being away from it then I know it's time to do something else.
TEA: TEA with Mike Parker
また、ライブセットをやらないのか、という問いに対して。
I used to get offers to do live PAs and I did a handful of them in the states and it was fine, but it was really difficult and I don't like the idea of transporting vintage analogue gear. My Korg MS-20 is 30 something years old, I don't like the idea of bringing that on the road with me. There has got to be another way for me to do it. I don't like the idea of ableton - it's a wonderful thing - but if I do something I want it to be 100 per cent live. I don't want to take tracks, string them together and throw some things on top. If I was to do a live PA, it would have to be 100 per cent live.
TEA: TEA with Mike Parker
いちいち共感する点ばかり!この人、ライブではないけど2008年に野外フェス「The Labyrinth」にDJとして来日していて、2010年12月にもWarehouse 702のパーティーに出演したらしい。けっこう来てるんですね、知らなかった。
私も経験から実感していることとして、PCだけで完結する環境でテクノを作るのって、ハード機材一発録りのときとまったく感覚が違うんですね。頭で考えて作るというか、つまり、身体を経由しないで手先で作るというか。もちろん、それが悪いわけではなく、器用なアーティストはそれでも素晴らしい曲を作るし、マウスひとつで肉体的なオートメーションを描いてしまう人もいると思うんですけど。
ただそれでも、フィジカルなグルーヴを1小節のループに落とし込む、というテクノにおいては、UIの面で、多くの人にとってはまだハード機材のほうが敷居が低いと思います。で、私自身、そうした理由からハード機材中心の制作スタイルに戻りました。ライブもやるつもりです。
別の記事で、今度はそのイベントの告知をしたいと思います。
マシーン・テクノ・リヴァイヴァル
最近なんとなーく感じている、テクノを取り巻く流れについて書いてみます。
4月に来日したNeil Landstrummのライブセットを見て、その構成がElectribeを中心にMachinedrumやMonomachineなどの、ハードウェア機材で固められていたのはけっこうな衝撃でした。というのも、テクノDJ界隈ではアナログからデジタルへという流れが定着し、どこへ行ってもノートPC(というかMac)の画面と睨めっこなアーティストは当たり前。無論、トラックメイキングにおいてもDAW全盛な昨今、厄介な配線の取り回しや機材の置き場所を気にせずとも、ソフトウェアシンセやVSTプラグインだけでマスタリングまでできてしまう時代なわけで。
ただ、この人だけが変わり者なのかっていうとそうでもなく、機材好きな人ってのは、実際は今でもけっこういるわけですよね。
上の写真は、今年3月3日(303の日)茶箱で行われた「TB or not TB」というイベントでのものですが、この日は全員がハードウェア機材によるライブパフォーマンスでした。そういえばこの日のことをブログに書きもらしていますが、すごく楽しいイベントでした。
まあ、ここまでのビンテージ機材を例に出すまでもなく、KORGが中心となっていわゆる「ガジェット楽器」を盛り上げていたりします。佐野さんのDETUNEや、ここうさんたちの活動(ELECTRIBE LIFE)はその最たるもので、なかにはハードの制約を超えた、とんでもない音作りをしている方々もいるわけです。
一方でそれとは別の流れもあって、興味深い例が、昨年Drumcodeからアルバムを出したBen Sims。この人はもともとハードウェア機材で曲を作っていて、一時期そこから離れてPC中心の制作スタイルに移り、08年ごろにまたハードウェア中心に戻ってきた。RAのインタビュー記事"Machine love: Ben Sims"より。
I used to totally be hardware and analogue sequencers and old shitty Ataris and I was kind of happy with that set-up, but I was well aware that the sound quality people were getting with updating and new production skills were really leaving me behind. So I did make a concerted effort to try and change everything and stop using so much hardware stuff and start to get more digital, and I just got kind of lost in it...Just trying to keep up with things like, "fucking hell this person is using this program, I need to start using it," rather than it just it being about the ideas or what I was trying to do with the music.
他の人に比べて、サウンド・クオリティの面で遅れていると感じてPCを導入してみたものの、流行を追いがちになってしまうところが気に入らず、現在は、マスタリングまわりはエンジニアとして共同作業しているPaul Macに一任しているとのこと。古いサンプラーやリズムマシンを愛用しつつ、Abletonで組み立てているそうです。
個人的には、Neil Landstrummの件とは別に、「ハードウェア機材の質感」を再発見したきっかけが、RegisによるDownwardsの旧作リマスター作品でした。これはまさにハードウェアな生々しいサウンドで、Discogsには使用機材のリストも(おそらくは特装版のジャケから)転載されています。ノイズも、そこからくる質感も「味」として残しつつ、今のテクノと比較しても遜色ない「硬い音」にきれいにリファインされた好例だと思います。多くの名作が放置されている状況を鑑みると、こういうリマスターが求められていると思うんですよね。
また、Cari Lekebuschは昨年、LenkことJesper Dahlbäckと組んでハードウェア機材のみによるEP、"Hands On Experience"の2作目を発表しています。下のプロモ映像ではTR-707とTR-727を使った制作風景も。
つまり、昔より(個人レベルでは)はるかに進歩した今のマスタリング技術を前提として、古いアナログ/デジタル・ハードウェア機材を中心に曲作りをしてみるといいんじゃないか、と考えるテクノアーティストが何人かいるようです。
という流れのなか、つい最近、すごいアーティストに出会ってしまったのですが、長くなってしまったのでまた別の記事で。
岡本太郎美術館に行ってきた
日曜日、かねてから気になっていた、川崎市岡本太郎美術館に初めて行く機会がありました。場所は向ヶ丘遊園駅から徒歩十数分、生田緑地の敷地内。あいにくの天気でしたが、ひっそりとしたメタセコイアの柱廊を抜けた奥の奥、どことなく日常から隔離された空間に、美術館はありました。
今回誘ってくれたサークルの先輩の杉山さんは、大の岡本ファン。作品を観ながら、背景やエピソードなどくわしく解説してくれました。私はといえば、渋谷の『明日の神話』が好きだってくらいで、ほとんど予備知識がなく。
個人的に、岡本太郎に関する原体験として強く印象に残っている作品がひとつだけあって、それが、相模原の西門商店街にあるモニュメント『呼ぶ 赤い手・青い手』です。
祖父の家が近くにあったので、たぶん幼稚園か小学校1、2年のころによく前を通ったんですが、子供心にもうコワくて。造形が禍々しいうえ、掌に顔があるし。もうずっとこの場所には行ってませんが、強烈に記憶に残ってます。
さて、今回は「岡本太郎 迷宮を行く」という特別展で、企画展というよりも、常設作品にいくつかの収蔵作品を加えた、拡大版の常設展とのこと。シュルレアリスムの影響を強く受けた初期の『傷ましき腕』から、『森の掟』『重工業』、さらに60年代後半の『明日の神話』『太陽の鐘』に至る絵画と立体作品が、区分けされつつもほぼ1フロアに凝縮された展示で、クラクラするほどの濃い内容でした。
さらに別室では、自宅アトリエでの制作風景を捉えたビデオも公開。見ると、大勢のスタッフにより複数の作品が同時進行で作られていくのが分かる。油彩における筆致にしても、一見大胆でダイナミックと思われがちだけど、近くで見ると工芸品のようにとても繊細。明確なイメージが脳内にあって、淡々とそれに近づけようとしている「職人」の仕事のようですらある。
ミュージアムショップで、たくさんの著作のなかから、入りやすそうな『今日の芸術―時代を創造するものは誰か』(光文社知恵の森文庫)を購入。まだ半分も読んでいないけど、見出しだけ見ても、岡本太郎の「芸術」観がはっきりと示されている。曰く、「芸術は『きれい』であってはならない」、「芸術は『うまく』あってはいけない」。
「なぜ、芸術があるのか」という節では、現代人の生き方についてこのように書いています。
一日のいちばん長い時間、単一な仕事に自分の本質を見失いながら生きている。たいていの人は、食うためだ、売りわたした時間だから、と割り切って平気でいるように見えます。しかし、自己疎外の毒は、意外に深く、ひろく、人間をむしばんでいるのです。義務付けられた社会生活のなかで、自発性を失い、おさえられている創造欲がなんとかして噴出しようとする。そんな気持はだれにもある。だが、その手段が見つからないのです。(中略)だが、どうやって?それをこれからお話ししようと思います。私はそこに、芸術の意味があると思うのです。(p.18-21)
1954年、高度経済成長期をまさに迎えようとしているこのころ、こういうことを書いているのはすごいですね。これに対して、2000年前の哲人セネカが、やはり古代ローマが最盛期を迎える直前、その著作『人生の短さについて』の冒頭で、まったく同じことを言っていたのを思い出しました。そしてアリストテレスの言を引いて、「生は短く術は長し(Art is long, Life is short.)」と。
四谷の美味しい天ぷら屋「天春」さんでご馳走になったあと、改めて渋谷駅の『明日の神話』を見学して、この日は解散。こうして見上げると、また少し、新鮮な感慨がありました。
バッハの教会カンタータを聴き始めて
20代後半になってからバッハを、というかクラシック音楽を聴くようになった自分にとって、声楽、特に宗教曲は最も馴染みにくいタイプの音楽でした。そもそも学生のころ、ボーカルのある音楽から逃れるようにテクノを聴き始めたという経緯があるのと、過去から現在にいたるまで完全に、宗教(キリスト教)と関わりのある生活をしてこなかったもので。
ただ、鍵盤楽曲を中心とする器楽曲から協奏曲、管弦楽曲と聴いてきて、以前ほどのアレルギーはなくなりました。信仰心はなくても音楽は音楽だし、詞の意味やニュアンスを理解することは重要だと思うけれど、人間の声そのものも楽器の一部とも言えるし。
最初にハマった宗教曲がマニフィカト(BWV243)でした。フィリップ・ピエルロ指揮、リチェルカール・コンソートの録音で、下の映像はCDについてくるDVDからのクリップ(レーベル公式)。
映像の美しさもさることながら、楽曲自体にもまったく違和感なくのめり込んでしまい、そこから、食わず嫌いはやめていろいろ聴いていこうと思いました。
次に心酔したのがミサ曲ロ短調(BWV232)。これは以前の記事(中大混声によるロ短調ミサBWV232)にも経緯を書いた通りです。
そういえばモテットも聴いて、特に有名な「イエス、我が喜びよ(Jesu, meine Freude)BWV227」を好きになりました。これは、ルネ・ヤーコプス指揮ベルリン古楽アカデミーのCDで。
で、教会カンタータなわけですが、作品一覧によるとBWV1からBWV200までざっと200曲くらいある(ちなみに「BWV」はJ.S.バッハの作品を整理するため後世につけられた作品番号で、演奏目的と楽器編成ごとの分野別に分かれている)。一覧だけ見ても、聖書に明るくない自分にとってはタイトルの違いも分からないし、どれから聴いていいのか。
とか考えていたら先月、たまたまYouTubeで「われ悩める人、われをこの死の体より(Ich elender Mensch, wer wird mich erlösen)BWV48」を聴いて、虜になりました。
始めは地味だなと思っていたんですが、まず冒頭の合唱の畳み掛けるような繰り返しにハマり、次に第6曲のテノールのアリアも好きになってしまい。
次に、ミサ曲ロ短調の"Crucifixus"にも転用された12番「泣き、嘆き、憂い、慄き(Weinen, Klagen, Sorgen, Zagen)BWV12」を聴きました。これはまた、短いながらもすごくドラマチックな展開で引きずりこまれる。
教会カンタータ、思っていたほど取っつきにくくないかも!いやむしろ、今なら余計な先入観に捉われずに、どんどん聴いていけるかも。どなたかでお勧めがあれば、ぜひ教えてほしいです。聴いてみます。