DJの「準備」と選曲について
こちらの2つの記事を読んで。
Lost Arrangement Systems | セット論
http://www.evangelion.net/~sango/log/eid1833.html
loopdrivelog : DJセットについて
http://loopdrivelog.tumblr.com/post/16467837317/dj
信頼するDJであるところの、Sangoさんとwatさんによるものですが、どちらも大変参考になります。DJどうしで案外こういう話ってしないもので、ましてやイベント中や打ち上げの席など、お酒の入っている状態では話題にも上らないし。
前者のSangoさんは、もともと極めてロジカルにセットを組み上げていく点が特徴であり、魅力だと感じています。洞察力というか、視点が鋭いですよね。内容に共感するのは後者のwatさんのほうで、いつもなんとなく描いているプロセスを簡潔に文章化されていて、なるほど、と思いました。
私も、かっちり展開を思い描いて準備するほうではないので、よく事前に「セットを組む」とはいっても、実際にやるのは、持って行く曲をざっくり選ぶことと、曲と曲の相性を確認することくらいです。相性というのは、デザインでいうと配色理論に近いもので、次の曲を選ぶときに「同一色相で選ぶのか」「隣接色相で選ぶのか」「対照色相で選ぶのか」といったようなものです。
これが、レコードのみの時代はさほど難しいことはなくて、レーベルやアーティスト、国や時代をキーに選んでいけば、わりと自然に混ざってくれるし、そもそも音質やトラック自体のクオリティが、レコ屋の棚に並んでいる時点で(ある程度)担保されていました。でも今は、CDJやPCDJで野良トラックや自作曲を自由に使えるようになり、かえって「決定的に合わない」2曲の組み合わせが、指数関数的に増えてしまった気がします。なので、いざミックスしたらコレジャナイ、というような事態を極力減らすための準備が欠かせないと思っています。
具体的には、曲単体の聴き込み(ブレイク位置や展開の把握)もそうだし、実際にDJミキサーで想定するbpmでミックスしてみて、相性を確かめるというようなことですね。
だいたい、DJって不自由なもので、いつもかけたい曲をかけられるわけじゃないと思うんです。好きな曲であったとしても、流れを無視してかけることは許されないし、上げるか下げるかという判断も、お客さんの反応によりけりだし。大抵の場合、出番が終わったあとに、あれもこれもかけられなかったと消化不良を実感することが多いです。
逆に、不思議と調子のいいときは、曲が勝手に「選ばれてくれる」感じがします。選曲で迷わないうえに、自然にかけたい曲に繋げていける。その前提条件はたぶん、ちゃんと曲が頭に入っていて、かつ用意する音源も多すぎず少なすぎず、それでいてハコやフロアの雰囲気が良くて、自分のコンディションも良いこと、でしょうか。年に1回くらいあります。
結局、事前に綿密に展開をイメージしても、必ずしもお客さんはアタマから終わりまで通して聴いてくれるわけではないですよね。途中でお酒買うかもだし、トイレ行くかもだし、友達と話すかもだし。良いプレイでフロアを離れさせない、っていうのは、結果としてはアリだけれど、それ自体を目的化するのはちょっと違うと感じています。どこから入っても、すんなり波に乗れて、そこそこ起伏を楽しめるくらいがいいのかな。
だからこそ、前のDJの流れを引き継ぐってすごく大事なことだと思います。昔って、最初の1曲は必ず前のDJと同じテイストの曲をかけて、自分の流れを作るのはその後から、ってのが暗黙の了解としてあったと思うんですが、そういうの古いのかな。というか、ざっくり似たようなトピックでググって、DJ入門系サイトで出てくるのが下の文章だから、今もある程度共通言語として生きているとは思うんですが。
The idea is to build from the last DJ, not crash and start again.
How to DJ - Preparing a DJ Set ! | DJ Master Course
こうした選曲論については、おなじみ『クラブDJストーム』の第3話「鋼鉄!機械DJロボ」が示唆的で面白いです。お客さんの体温をリアルタイムに分析して選曲に反映させ、盛り上げまくるロボットDJに対して、ストームがどういう選曲をしたか。これ、それなりに深い話だと思います。
クラブDJストーム 3rd スクラッチ -1-
http://djstorm.blog49.fc2.com/blog-entry-15.html
PSO2のα2テスト
画像は『PHANTASY STAR ONLINE 2』α2テストにおいて撮影された実機画像です。
開発中のため、正式版とは異なる内容であり、今後改良される可能性があります。
『PHANTASY STAR ONLINE 2』公式サイト
http://pso2.jp/
...って書かなきゃいけない決まりらしいので一応。
2012年サービス開始予定の「ファンタシースターオンライン2(PSO2)」のα2テスターに参加してみました。
PSOは、2000年にDC版初代~Ver.2にどっぷりハマって、その後PC版PSU、PSP版PSPo、DS版PS0(ゼロ)と追っかけてきて、間のいくつかはスルーしてきたんだけど(BBとかGC版EP3とか最新のPSP版PSPo2iとか)、久しぶりにやってみるかと。なんせ無印初代の「2」だし、ところどころで原点回帰を謳っているようなので。
まとまった時間がとれなかったため、初日はソロで少しだけ潜ってみました。はじめUSBゲームパッド(PSUのときに公式推奨だったエレコムのU912F)を繋いでみたら、方向キーによる移動が思うようにいかなくて、どうも同じ症状の人は多かったみたいですね。仕方なくキーボードとマウスでプレイしたんですが、慣れるとけっこう快適。マウスのスクロールボタンによる武器チェンジが快適で、このままパッドいらないかもです。
PCのスペックはさほど高くなくて、Core i5のメモリ4GB、グラフィックカードはNVIDIA GeForce G310。それでも設定を落とせばPortal 2も難なくクリアできたので、大丈夫だろうと思っていました。
実際、簡易描画設定を5段階の2に落として、画面サイズを1024*576にしたくらいで、そこそこ快適に遊べました。800*600だと、さすがにUIの文字が潰れて読めないことがあったので、このあたりが下限かな。
ゲームとしてはわりと完成されていて、いかにもPSOな懐かしい感じもあって、良かったです。これはたぶん製品版が出たら買うなぁ。
キャラクタークリエイトはまだあまり試してないけど、無難にいつものレイキャストで。今回はライフルで遠巻きに当てるだけじゃなく、近接武器のガンスラッシュが使えるので、レンジャーでもある程度削ったら突撃できて楽しいです。ジャンプアクションも、きびきび動いてイイ。
まだ通信にラグが出るところがあって、ダメージの表示やアイテムの取得がワンテンポ遅れることがありました。少し遊んで気づいたのはそのくらいですね。
今回はがちがちのストーリーものではなくて、「○○歴××年、冒険者たちが数々の惑星探査に向かいました、マル」という下敷きがあるだけの、かなりざっくりした設定なだけに、かえっていろいろ広がりそうな予感がします。PSOのテーマを流用したオープニングムービーもなかなか!
Body Informありがとうございました
おかげさまで、2回目も無事に終わりました。遊びに来て下さった方、遠方から応援してくれた方、ゲストDJお2人と茶箱さんに感謝です。理想の空間作りはまだ道半ばですが、成果を急がず、地道に回を重ねていければと思っています。
毎回、本当はずっとフロアに居たいんですが、キャッシャーでのご挨拶も大事なのでそうもいかず。簡易対応とはいえ、iPadで映像もオペレートしているし。なので、遊びに来てくれる方のリアクションや感想をとても頼りにしています。特に、Twitterハッシュタグ(#bodyinform)に積極的にコミットしていただいた方、どうもありがとうございます。
今回制作したCDも、持ち込み分は全てなくなって良かったです。余談として、箱鳴りは思っていたよりも悪くなかったんですが、自分のセットで使うにはまだまだ調整が必要だと感じました。かえってモチベーションが上がったというか、音作り的に試したいことが増えてきました。とはいえ、すぐ2週間後に迫ったコミティアの準備体制にシフトしなければいけないので、実作業はしばらくお預けになりそうです。
自分のセットについては、フミアキさんから133bpmで受けたのを、上げ下げしながら128bpmまで落としていく流れでした。BI向けの選曲では、直球のテクノというか、「ハード~」とか「ミニマル~」とか、特定の枕詞がつかない形での「テクノ」を意識しています。プレイリストは、メモ的にTumblrにポストしておきました。
EPX studio.clip - Playlist @ "Body Inform" 2012-01-22
http://epxstudio.tumblr.com/post/16332416476/playlist-body-inform-2012-01-22
3月はちょっと別のパーティーを考えていて(あのイベントの3回目!)、次回のBIは5月です。
Ricoh CX4を買いました
2年ぶりのコンデジ買い替えです。
愛用していた、ペンタックスのOptio H90の液晶部分が、一部割れてしまい。バッグの中に入れていた際に、インナーイヤーヘッドフォンのハウジング部分に押されてしまったみたいです。そもそも、日常のスナップ用に使っていたので、別段画質なども気にしていなかったのですが、いざ買い替えを前提に検討し始めると、どうしても一眼レフと比べてしまいますね。携帯(SoftBank 003SH)のカメラがもう少しマシなら、それで事足りるのですが、iPhoneのようにもいかず。。
そのため、買い替えにあたって重視した点は下記の通りです。
- サイズが大きくなく、手軽に持ち出せるスナップ用のコンパクトデジカメ。
- 一眼(PENTAX K-r)の代替にまではならなくても、ある程度の画質。
- オシャレでスマートなデザインよりも、質実剛健系で。
- 予算は1万円以内。
最後の条件がネックで、つまり新品でこの価格帯の製品って、作例を見てしまうと本当に五十歩百歩で、要はどれでも同じなんですね。むしろ迷う余地がない。
で、それが中古だと、数年の型落ちのもので、ミドルクラスの機種(発売当初の販売価格が3~4万円くらいのもの)がいくつか出ているのを知りました。たまたま寄った渋谷の「カメラのキタムラ」で、リコーのR8を7,000円台で見かけたのがきっかけです。
ざっくり検討の結果、リコーのCXシリーズ(CX6~CX1=Rシリーズの後継)か、ニコンのP8000以降の同シリーズのどちらかに絞りました。ペンタックスの最新コンデジ、RZ18も評判が良くて気になったのですが、予算オーバーなのと、安いコンデジくらいはペンタ以外のメーカーのものも試してみたいということで。
で、19日、打ち合わせ前に寄った新宿のキタムラで、少し迷って、中古で状態の良かったCX4を購入しました。実際、予算からちょい足は出ましたが、誤差の範囲(?)です。リコーにしたのは、店頭でCX6を触ったときにUIのとっつきやすさに感動したのと、ネットで前機種のCX3の作例を見て、が理由でした。逆に、ニコンのP8200とかは、触ってみると操作系にちょっとクセがある感じで、個人的には少し印象悪くなりました。
中古とはいえ、発売からはまだ1年程度で、機能的にも必要十分みたいなので、これからいろいろと試してみたいです。なので、撮ってみた感想などはまた別途。
ミニアルバムを作りました
今週日曜日の「Body Inform」を控えて、8年ぶりにソロ名義のCD-Rアルバム「R-9 - Machine Body Volume 1 EP」を制作しました。イベントにて、数量限定で配ります。CDでの再プレスは予定していなくて、イベント終了後しばらく後(2月~3月くらい?)に、320kのmp3としてダウンロード形式で頒布します。もし早めに聴いてみたいという方がいれば、イベントに遊びにきてみてください。
イベントの詳細はこちらから。
制作に至る過程は、以前の記事(Machine Bodyプロジェクト)に書いた通りで、なんとか予定通り完成した感じです。メイン機材はElectribeのESX-1で、3系統にパラで出した音源にそれぞれ違うエフェクターを通して、アナログミキサーに突っ込む形で。あと1チャンネルをノイズ専用に割り当てて、ラジオチューナーのダイヤルをリアルタイムに回したり、SH-201で作ったピンクノイズを手弾きで混ぜたり、いろいろやってます。マスタリング後の音質はともかく、アナログらしい質感は出せたかなと思っています。
ハード機材での音作り、やっぱり自分に向いているなと感じました。DAWでこつこつブレイクを作ったりしていると、どうも嘘っぽくなるというか、頭で考えて作ってしまう気がします。その点、ハードで一発録りだと、身体性を落とし込めるというか、数値的にジャストではなく「揺れてる」部分を含めることができて、楽しいですね。
「BI」は次の3月はお休みで、その次は5月を予定しているんですが、この間にもうちょっと作りためて、シリーズとして続けていければと考えています。あと、次回以降はRではなく、はじめからダウンロード形式のリリースにしていきたいです(CDはそれなりに手間がかかるので)。
タンゴ・エレクトロニコとの出会い(後編)
前回の記事の続き。
というわけで、主にアルゼンチン本国を舞台にここ10年ほど続いている、タンゴとエレクトロニック・ダンスミュージックにまつわるムーブメント。以下では、この動きに関係する(と思われる)バンド/アーティストのなかで、特に気になったものをピックアップしてみます。内容は特に網羅的というわけでもなく、あくまで個人的な好みを反映したものです、ってことで念のため。
なお、始めに言及したGotan Projectは、拠点がヨーロッパで、ここで触れるムーブメントとは時間軸も少し異なる(99年に活動開始)ようなので、省略しています。
Bajofondo(バホフォンド)
グスタボ・サンタオラージャという南米の大物プロデューサーが率いるプロジェクトで、当初は「Bajofondo Tango Club(バホフォンド・タンゴ・クラブ)」として活動、同名のデビュー盤はユニバーサルから日本国内盤も出ています。私は渋谷のレコファンで、デビュー盤とサードアルバムの"Mar Dulce"を探して買いました。特に、サード収録でシングルカットもされている"Pa' Bailar"は、バンドネオンに小松亮太さんが参加していて、YouTubeのPVの再生回数が160万回を超えるなど、それなりにヒットしたようです。
私は、ファーストに入っている"Perfume"(パフュームじゃなくて「ペルフーメ」)が好きです。これとか、もうスタイルは完全にディープハウスなんだけど、ひたすら内向する精神性に、ものすごーくタンゴを感じてしまいますね。
で、さらにこのバンドは、よりクラブミュージックに特化した小編成のDJセット「Bajofondo Remixed」でもパフォーマンスを行っていて、それが私の思う理想的なテクノ×タンゴの姿に限りなく近いです。ラップトップにベース、ヴァイオリン、バンドネオンという編成。文句なくかっこいい!この路線は、世界中で他に誰もやっていないはずなので、追求してほしいな。
上のライブの2曲目は、DJのPablo Bonillaが自身のユニットOmar名義でリミックスした"Pa' Bailar"で、これなんかは普通にDJで使えるミニマルトラックですね。ただ、今のところ音源がiTunes Storeくらいでしか買えないので、今後BeatportやJuno Downloadあたりもカバーしてほしいところです。
Tanghetto(タンゲットー)
タンゴとゲットー(ghetto)でタンゲットーというわけですが、名前よりも、次のPVのインパクトがすごい。New Orderの"Blue Monday"のカバーを、バンドネオンでやってます。全然違和感ない。
他にもEurythmicsの"Sweet Dreams (Are Made Of This)"をカバーしていたり、ピアソラのコンフント・エレクトロニコの『トロイロ組曲』から"Zita(シータ)"をやっていたり、原曲重視の手堅い仕事が目立ちます。先に引用したTango Pulseというサイト上のTanghettoのインタビューは、今の流れを現地の演奏家がどう考えているのか、がよく分かる良記事でした。
San Telmo Lounge(サン・テルモ・ラウンジ)
このバンド、すごく気に入りました。どれくらいかというと、アルバム"Electrocardiotango"を買うために、初めてAmazon mp3を利用したくらいです。iTunes Storeでも買えるけれど、DRMフリーのmp3で欲しかった。
良いです。ファン・ホセ・モサリーニとアントニオ・アグリによる(アンプラグドな)キンテートが、90年代に素晴らしく先進的な"Sonagasata"というタンゴ作品を出していますが、不思議とそれを連想しました。
また"Barderita"という曲なんかは、まさしくピアソラ・スタイルのフーガで、冒頭の主題をバンドネオン→ギター→ノコギリ波と繋いでいくところが、異様な興奮を誘います。
一方で、別のアルバムではピアソラの"Zita"や"Biyuya"を、比較的大胆にアレンジしているようですね。特に面白かったのは"Buenos Aires Hora Cero"で、深夜0時のブエノスアイレスの情景を描いた原曲に、現代都市らしいノイズやサンプリングを重ねて、「今の深夜0時」にアップデートしているところです。
オラシオ・サルガンの古典的名曲"A Fuego Lento"のカバーも、古い価値観にとらわれず、突っ込んだアレンジをしていて聴きごたえがありました。"Electrocardiotango"は、アルバム全体の構成も良く、おすすめです。ちなみに、輸入盤CDもAmazonで買えるようですが、価格差や手軽さを考えると(個人的には)ダウンロードでもいいかな、と思います。
Eléctrico Ardor(エレクトリコ・アルドル)
これ、好みが分かれそうだけれど、どうかなぁ...。変な古いジャーマントランスみたいな曲があったり、女性ヴォーカルを据えたダサかっこいい曲があったり。いやいや、普通にかっこいいし、私は好きですね。妙に耳に残ります。
公式チャンネル?で割と曲をアップしていて、他には古いタンゴ映画をカットアップした"Noti"という曲のPVが素敵。アルバムは、ダウンロードではiTunes Storeでのみ購入できるみたいです。
Ultratango(ウルトラタンゴ)
ピアソラのカバーアルバム、"Astornautas"(アストル・ピアソラのAstorと宇宙飛行士のAstro~をかけている)を出しています。ドラムンベースというか、ほぼジャングルの『リベルタンゴ』とか、アナログリズムマシン丸出しの『ミケランジェロ'70』とか、微妙に完成度の低いアレンジをやっていて面白いです。
オリジナルでは、"Rosa Porteña"という曲が、Fresh Fruitsあたりの古~いダッチハウスまんまで懐かしいですね。あと、なぜか大御所歌手のラウル・ラビエ(70代のおじいちゃん)ともコラボしていて、タンゴ界の懐の広さはすごいなと思いました。
だってUltratangoの公式サイトにこう書いてあるんですよ。「Not your Daddy's Tango.」!
Tango Crash(タンゴ・クラッシュ)
上に挙げた中では、最もアヴァンギャルドかつクラブ寄りの音かもしれません。ドイツ在住のアルゼンチン人デュオによるユニットだそうです。オスバルド・プグリエーセの『ラ・ジュンバ』のカバーでは、原曲の良さを活かしつつ大胆にブレイクビーツやシンセをミックスしていて、上手いなぁと思います。
Beatportでリミックスアルバムが出ています。
Tangothic(タンゴシック)
デビュー盤の"Neurotango"(Amazon mp3)というドラムンベースが、完成度が高くてびっくりしました。ヴァイオリンのギコギコまでサンプリングしていてポイント高い。Beatportで売ればいいのになぁ。他にもダブっぽいのとか、ハードテクノ風とか、いろいろやっているみたいです。
A.P.P.A.R.T
フランス人のソロ・ユニットのようなので、若干主旨からは外れますが、良かったので。Beatportでも出ている"Nu Tango"というアルバム、タンゴからサンプリングした音ネタをだいぶ派手に切り貼りしていて、まさにこういうの待ってた!という感じ。いくつか自分のDJで使えそうな曲もありました。
あとなんだかこの人、同じ手法でフラメンコを切り刻んだ"Flamencotronics"というアルバムも出していて笑えます。
上記以外にも、Narcotango (Carlos Libedinsky)、Otros Aires、Tangwork Companie、Buenos Aires Tango Beat、Electrocutango、Electro Dub Tango、など、それはもう色々なバンドがあるようです。ちょっと、打ち込みが単調すぎたりで、ピンと来なかったものも多いのですが。
番外として、逆方向に振り切れてしまった作品がこれです。ピアソラの"Fuga y Misterio"のハードコア・レイヴ・リミックス。冒頭の「ピアソーラー!」っていうシャウトも失笑ものだけど、フーヴァーシンセとバンドネオンが同時に鳴ってる曲が世の中にあるとは思わなかった。これは許す。
TANGO ELECTRONICO.POR OID MORTALES..FUGA Y MISTERIO. - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=o_K9otJBK40
ところで、うって変わって、日本でタンゴ・エレクトロニコな音楽を作っている人なりバンドって、いるんでしょうかね。
パッと思い当たるのが、小松亮太さんの『タンゴローグ』というアルバムに収録されている、鳥山雄司氏作曲の"Jealous Man (No me hagas Melancólico)"という曲。これ、いきなりサンプリングしたバンドネオンのリフの逆再生から始まるメチャクチャかっこいい曲で、私がタンゴと電子音楽の繋がりを意識したきっかけでもあります。小松さんがバホフォンドに絡んでいたことも嬉しい驚きだったし、この先の続く10年で、よりタンゴ側にもテクノ側も深化した音楽が聴けるようになると楽しいだろうな、と思います。
タンゴ・エレクトロニコとの出会い(前編)
3日、年始セールだというので、久しぶりにディスクユニオン新宿本館4F(タンゴの中古CDがそこそこ揃っているお店)に行きました。アントニオ・アグリのリーダーアルバムと、少し迷って、Gotan Project(ゴタン・プロジェクト)の2010年のアルバム『Tango 3.0』を購入。
Gotan Projectは、タンゴとエレクトロニック・ミュージックの要素をミックスした、パリを拠点とするバンドで、あのXL Recordings傘下の¡Ya Basta!レーベルからアナログも出ているので、ハウス界隈ではご存じの方もいると思います。私も、あわよくばDJで使えないかとレコードを買ったりしてきましたが、正直さほどハマらなくて。というか、基本的にラウンジ・ミュージックなんですよね。
で、とはいえ私は、以前からタンゴとエレクトロニック・ダンスミュージックの相性の良さに、ただならぬ期待を抱いていました。タンゴほど強力な4つ打ちの音楽なんて他にないし、バンドネオンの複雑なリードの組み合わせによる音色は、構造からして「電気を使わないシンセサイザー」そのものだし。なにより、タンゴって本来、各国の雑多な音楽を、雑多な楽器で演奏する、めちゃくちゃなミクスチャー音楽だったわけだし。
件の『Tango 3.0』は、良くも悪くもいつものGotan Projectそのものだったんですが、ふと気になって調べてみると、意外な事実が。というのは、2000年代前半あたりから(つまりここ10年間くらいで)、アルゼンチン本国や隣国ウルグアイを拠点とする、いわば「エレクトロ・タンゴ・バンド」が続々と現れて、ちょっとしたブームになっていたんですね。しかも、サウンドの幅もそれなりに広く、オーソドックスなタンゴの小編成に単にシンセを加えたフュージョンっぽい音楽から、サンプラーやリズムマシンを使ってフロア向けに大胆にカットアップした、ラディカルな音楽まで、様々。
これらは、大雑把に「エレクトロ・タンゴ」とか、「タンゴ・エレクトロニコ」とか呼ばれているようです。ただ、前者だとまた、エレクトロとエレクトロニカ、エレクトロハウスの違いについて言及せざるをえなくなるので...個人的には、後者を推していきたいです。Tango Storeなどでその表記でカテゴライズされているのと、アストル・ピアソラが1970年代に電子楽器を採用したバンドで「Conjunto Electrónico(コンフント・エレクトロニコ)」を名乗っていたこともその理由です。
というか、この種の実験(古典的なタンゴ編成と電子楽器の組み合わせ)において、やはり先駆者はピアソラなんですね。タンゴの楽器編成に、最初に電気(=エレキギター)を持ち込んだのも、ピアソラだとされているそうですが。
以下は、後述するバンドTanghettoと、Otros Airesのメンバーそれぞれが語るピアソラからの影響について、インタビューの抜粋です。
Discovering Piazzolla allowed us to embrace Tango. We could listen to it. After Piazzolla, we discovered other composers like Pugliese and Troilo. He was the gate to enter the Tango.
Tanghetto Interview
I feel that they were influenced by Piazzolla and have stepped beyond. We are based in traditional music. Our roots are all the traditional. Most electronic bands are based in Piazzolla's work.
Otros Aires Interview
シンセやハモンドオルガンなどを導入した「コンフント・エレクトロニコ」では、『トロイロ組曲』などの超名曲を残しながらも、ピアソラ自身は後年、こうした方向性には否定的なコメントを残しています。いわく、「電子音には生命がないんだ。誰がやっても出るから、人間の価値はあらわれない。(『ピアソラ タンゴの名盤を聴く』2000年、立風書房、p.121)」。
とはいえ、70年代当時と現在とでは、電子音楽にまつわる技術の進化は比べるべくもないし、今ならもっと面白いことができても不思議じゃない。そんな思いで、今また、いくつものバンドが「タンゴ+電子音楽」というテーマに挑戦しているように見えます。
難しいのは、ただカッチリしたBPMでレコーディングした生楽器によるオケと、打ち込みのリズムトラックをミックスしても、大抵の場合、単にダサくなってしまうんですね...。テンポの緩急によるダイナミクスの表現って、タンゴ特有のグルーヴのかなり大きな部分を占める要素だと思うんです。巨匠のバンドネオン・ソロなんて、原型を留めないくらい"タメ"を作るし、それが何とも言えない味になったりするわけで(Los Mareados - Daniel Binelli (Juan C. Cobian) 2004 - YouTube)。
なので私は、やるなら大胆に解体・再構築して、濃厚なエッセンスだけを取り出すくらいのほうが、むしろタンゴらしくなるのではないかと思います。もしピアソラが今の時代に生きていたら、中途半端ではなく、徹底的にやったでしょう!
と、長くなりすぎたので、この記事続きます。
Resident Advisor (RA)でDJページを作る
掲題の通り。ひと通りやってみたので、手順をまとめてみます。
「Resident Advisor (RA)」は、海外で比較的ポピュラーな、DJ/クラブミュージックファン向けのSNS。パーティー情報のやりとりやDJチャート、フォーラムなどの情報交換に特化した作りになっているばかりでなく、クラブ系ニュースのニュースソースとしても機能しているようです。ようです、というのは、私自身もまださほど馴染みがないからなのですが、要はClubberiaやHigher Frequencyと、iFlyerが合体したようなイメージです(ざっくり)。
私はかねがね、iFlyerのユーザー・インターフェースの失敗に起因する猛烈な使いにくさに、あのmyspaceを重ねて見ていて、同じ機能を実現するWebサービスがないものかと思っていました。が、このRAはなかなかよく出来ています。実は2011年で10周年を迎えたという、そこそこ中堅のサイトだそうで、8月には日本語版ベータがオープンしました。日本語版チームによるTwitterアカウント(@ra_japan)もあります。とはいえ、実際には深いページに進むと英語の箇所がほとんどで、ローカライズはまだまだ完成途上といったところ。
RA News: Resident Advisor日本語(ベータ)版がオープン
http://jp.residentadvisor.net/news.aspx?id=14741
で、会員登録をすると、ニュースの購読だけではなく、プロフィールページを起点としてイベントやクラブのお気に入りによるソート、イベント写真の共有、フォーラムの利用(英語版のみ)ができるという触れ込みになっています。また、DJは一般アカウントとは別のプロフィールページを、オーガナイザーやレーベルオーナーはそれぞれのページを作成し、プロモーションに活用することができます。
試しに作ってみたDJページが、以下。
RA: R-9
http://jp.residentadvisor.net/dj/r-9
できることは、プロフィールの公開、出演予定イベントの管理、DJチャートの公開、DJフィード(1日1記事まで登録できる簡易ブログ機能)の作成、など。困ったのは、プロフィール本文で日本語を使うと文字化けしてしまうことですが、これも日本語正式版リリース時には解消されるかなと...。
さて、この説明によると、DJページの作成には2つの条件があって、ひとつはRAのアカウントを持っていることと、もうひとつはRAに登録されたイベントかDJチャートに名前が掲載されていること。ってのはつまり、アカウントを作って、出演予定のイベントを勝手に登録してしまえば、プロもアマチュアも関係なく作れてしまうというわけです。
このDJページは、RAアカウントのプロフィールページと並行して持つことができ、作成時点で自動的に紐づけられます。このへん(一般アカウントとアーティストアカウントの違い)がmyspaceでは非常に分かりにくかったのですが、RAではそこそこ合理的に出来ています。
最初に、登録ページでRAアカウントを作って、適当にプロフィールを登録すると、アカウントのプロフィールページが自動作成されます。これが、一般ユーザーのプロフィールページにあたります。
RA: epxstudio (Yohei Taniguchi)
http://jp.residentadvisor.net/profile/epxstudio
次に、出演イベントを登録します。「My Events」から「Submit an event」と遷移すると、イベント名、開催日、会場を入力する画面になります。会場は都内のクラブがほぼほぼ網羅されており、もちろん茶箱さんなんかもあります。
イベントの詳細を登録しても、すぐには公開状態にならず、Pendingステータスを経て公開になるようです。運営側で内容のチェックをしているのかな?完了すると、メール通知が来て、イベントページが作成されます。私の場合は、登録の翌日に公開されました。
RA: Body Inform at Sabaco Music & Cafe, Tokyo
http://jp.residentadvisor.net/event.aspx?324594
イベントページはこんな具合で。
ここで作成されるイベントページの出演者欄に名前があると、DJページを作成することができるようです(既にイベントが登録済みの場合は、上記の手順は不要だと思います)。
「DJページ」から「DJページ作成」と遷移すると、名前を入力する画面になります。ここに入力された文字列と、イベントページに登録済みの出演者名を照らし合わせて、自動で紐づけるようですね。こちらもプロフィール作成後、すぐには公開されず、一応チェックが入るようです。私の場合は、公開の連絡がメールで通知されるまで、こちらも一晩ほどかかりました。
ってわけで、今後どの程度普及するかは未知数ですが、作ってみて損はないかなという感じです。ご参考までに。
シンセサイザーと「フーガの技法」
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
新年ひとつめの記事ですが、こんな話題でも。
去年、YouTubeで見て、最も感激したビデオのひとつです。ノリノリのヒゲのおっさんが、J.S.バッハの「フーガの技法 BWV1080」のうちの「コントラプンクトゥスIX」を、声部ごとに歌い(?)分けた音源を、ステレオで多重録音したものです。これは何をしているのかというと、いわゆるトークボックス(トーキング・モジュレーター - Wikipedia)というやつで、口に咥えたチューブで音を鳴らし、それを口の中で反響させてマイクで拾うことにより、ヴォコーダー風のエフェクトがかかる、という手法ですね。最近でもたまにやっている人がいて、WIRE07にも来たSpirit Catcherがライブで使っていました。
このビデオ、とにかくバッハによる原曲のドライブ感を、表情とアクションで見事に表現していて、ハマります。後半で急加速するところなんか麻薬的だし、オチの下画面のドヤ顔でいつも笑ってしまう!制作したDJ Paradiddle氏は、他にもこういう変わった多重録音系のビデオをいろいろ作っているらしいです。
さて、この「フーガの技法(The Art of Fugue / Die Kunst der Fuge)」は、バッハが極めた対位法による楽曲形式「フーガ(ひとつ以上の主題が、さまざまな声部に繰り返し現れる)」の美しさ、完全性を象徴する作品として知られています。上のビデオでは、4つの声部がステレオで明確に区別されているので比較的聞き取りやすいのですが、同じ曲で、この構造がもう少し分かりやすいビデオがありますので、そちらを。
MIDIノートを色分けして視覚化するソフトウェア、Music Animation Machine (MAM)の開発者として有名なStephen Malinowski氏による自演で、同作品から「コントラプンクトゥス(Contrapunctus=Counterpoint=対位)IX」です。このピアノロールを見ると、導入からまったく同じ音型がアルト、ソプラノ、バス、テノールの順に現れて、その後も何度も何度も、異常な密度で繰り返される様子がよく分かります。しかも鍵盤上では、4つの声部を完全に2本の手だけで弾いている!自分のように楽器が弾けない人に言わせれば、これはもう魔法のようにしか見えません。
氏によるバッハのフーガの解説ビデオのなかでは、昨年12月に公開されたばかりの同作品「コントラプンクトゥスIII」があり、これは声部の色分けのほか、主題、対主題が楕円と円などの形で表現されているなど、更に分かりやすくなっています。見ていると、脳の普段使っていない部分がじわじわしてきますね。4コアのCPUがフル稼働せざるをえない感じ。
で、実はここからが本題。
「フーガの技法」は作品中に明確な楽器の指定がなく、一般にはチェンバロやオルガンのような鍵盤楽器のために書かれたというのが定説になっていますが、要はどんな楽器で演奏してもいいのだろう、ということになっているようです。加えて、この曲があまりにロジカルで数学的なことから(かどうかは知りませんが...)、シンセサイザーに演奏させてはどうか、という試みを行った方々がいます。
その先駆者が、現代音楽家の高橋悠治氏。彼が1975年に発表した「フーガの[電子]技法(The [Electronic] Art of the Fugue)」は、バッハの同作品から7曲を抜粋して、Moog-Type 55とEMS-Synthi 2という2つのシンセサイザーを使って録音した作品です。興味がある方はニコニコ動画(高橋悠治『フーガの「電子」技法』(1975) ‐ ニコニコ動画(原宿))で聴いてほしいのですが、いまは廉価盤が極めて手に入りやすく、大きめのCD屋に行けば1,000円そこそこで買えます。
Amazon.co.jp: フーガの「電子」技法: 高橋悠治: 音楽
また、西洋音楽史家の坂崎紀氏は、1981年にRolandのアナログシンセサイザーSystem 700とシーケンサーMC-8を使って「コントラプンクトゥスVIII」を録音していて、ご本人が、当時の貴重な音源をYouTubeにアップされています。打ち込みはCV/ステップ/ゲートによる数値入力で、完成には1ヶ月を要したとのこと!気が遠くなりますね。
ちなみに、「フーガの技法」の"機械"的な演奏としては、グレン・グールドの1962年のオルガンでの録音が有名です。私も同作品で最初に聴いたのがこの音源だったのですが、音色が、あまりにも一般的にイメージされる「オルガンの音」とはかけ離れていて、ピコピコしたシンセの音に聴こえたのでびっくりしました。しかも、テンポが均一で極めて抑揚がなく、シーケンサーに自動演奏させているよう。それが、この曲のロジカルな雰囲気にぴったりだったのですが。
これを坂崎氏は、1987年の論文「計算機と音楽の接点」のなかで、以下のように評しています。
カナダのピアニスト、グレン・グールドが、バッハの《フーガの技法》(BWV 1080)の前半9曲をパイプオルガンで録音している。この作品のオルガン演奏では、筆者はこの他にH.ヴァルヒャとマリー=クレール・アランによるレコードを持っているが、この3者の演奏を比較してみると、グールドの演奏が全般に最も速く、テンポが一定であり、アーティキュレーションが鋭く、メカニックで無機的な印象を与える。この演奏について、ある評論家は「私は宇宙船を操縦したり飛ばせたりする人たち、精密機械技師たち、あるいはレーサーたちの冷静不敵な顔を思い出す」と述べているほどである。筆者はたまたまシンセサイザとコンピュータによる自動演奏システムを使う機会があったので、この《フーガの技法》から2曲選び、グールド風のテンポとアーティキュレーションでデ-タを作成してみた。その結果わかったことは、一般には機械的といわれているグールドの演奏も、本当の機械=計算機による自動演奏に比べればはるかに人間的なニュアンスに富んだものであるということだった。
【PDF】坂崎紀「計算機と音楽の接点」音楽情報科学研究会編『コンピュータと音楽』[『bit』1987年9月号別冊]共立出版
このグールドの盤も、ソニーから廉価盤が出ていて、どこでも買えます。私は、これでハマりました。
そして以下は蛇足ですが、自分でも、MIDIの助けを借りてシンセサイザーでの「フーガの技法」を録音してみました。パブリックドメインのMIDIファイル(パート譜)を4トラックに分け、それぞれにTweakbenchのフリーのファミコン(NES)風ソフトシンセVSTi「Triforce」を割り当てて、DAWで編集したものです。曲は「コントラプンクトゥスI」。
各声部に割り当てた音色は、パルス波をベースに、右端にパンを振ったバスから左端のソプラノまで、三角波成分を少しずつ増やしています。聴感上の気持ちよさを優先して、適当にパルスの比率を変えているので、まったく厳密ではありませんが。
元日の夜から何をやっているんだろう、という感じですね...。
昨年、本当は3月にミューザ川崎で、オルガンの松居直美さんによる「フーガの技法」全曲のコンサートに行く予定だったのですが、震災で中止になってしまいました。もちろん、機械的な演奏だけではなく、昨年購入したムジカ・アンティクワ・ケルンの弦楽4重奏版も大好きです。このCDは本当に素晴らしかった。他の楽器での録音もいろいろ聴いてみたいと思っています。