Fumiaki Kobayashi「qualia 1」
gatearray recordingsのM3新作、Fumiaki Kobayashiさんのアルバム「qualia 1」のリリースにあたって、公式ブログにレビューを寄稿しました。事前にいただいたプロモをもとにしたものですが、マスターと同一のことで、製品版もこの曲順になっているはずです。
以下全文を転載します。
Fumiakiさんの新作「qualia 1」は、旅の音楽だと思う。
それも、日常から遠く離れた、どこか知らない異国の風景。
――導入部の、現実感からの乖離、とてつもなく広大な空間を想起させるアンビエンス。続く"Altar Track"のどこか寂しげなクリック音に始まる、民族的でエモーショナルな世界観は、これまでの彼の音楽におけるサウンドスケープとは、まったく異質のものだ。フロアを意識したDJツールではないという特徴を除いても、その音から生まれるイメージは、今や記号と化した「インダストリアル」な機械的・退廃的ヴィジュアルとは合致しない。明らかになにか別の、非日常的な、異文化に立ち向かったときの繊細な心情の変化が表れているように思う。
誤解をおそれずに言えば、それに最も近い感覚は「旅情」だ。好奇心と孤独と、決意。全10作からなる「Presence」という長い旅を終え、最小限の、本当に必要な荷物だけを携えた「qualia」という新しい旅は、すでに始まっている。
周りに広がるのは未知の世界。自ずと、彼の内面の既知のサウンドが無二のアイデンティティとして浮かび上がってくる。
そうした旅先で、「Presence」からの2曲のリミックス、そして新曲で唯一のツールライクなミニマルトラック"Gate of Zero"では、敢えて過去を振り返る試みにも取り組んでいる。数少ない積み荷の中から選ばれたパーツで再構築された音楽は、自然体で、かつ無駄がない。
"Twilight Wharf"は、印象的なピアノに先導されるように荒々しいリズムが姿を表す。低音域の重厚さはかつてのハードテクノを連想させるが、その響きは、洗練されたミックスによって、あくまで軽やかだ。浮遊するシンセパッドとの絡みの妙を楽しんでほしい。 そして終曲が、静かに夜の訪れを告げる。
本作は「1」と銘打たれている。旅は終わらない。
次の旅先からは、どのような便りが届けられるだろうか。
R-9 (EPX studio)
同様に、gommaことKei F.さん、Atsushi Oharaくん、watさんの3人によるレビューが掲載されているので、ぜひ元記事をご覧ください。
qualia 1 Production Note #05 qualia 1フレンドレビュー - gatearray recordings blog
http://gatearray-recordings.net/blog/archives/860
2曲目と6曲目が特に気に入っていて、レビューを書き終えてからもよく聴いてます。
なんだか、ギュウギュウに詰め込んだ音ではないので、聴いてて疲れないです。今週末日曜日のM3に行く予定のある方は、チェックしてみてください。