短い期間に集中的にレコーディングにあたることは初めから決めていたので、それに向けた事前の準備にかなり試行錯誤がありました。特に今回は、機材の組み合わせをほぼ一新したこともあって、よりシンプルに、なおかつ良い意味でのライブ的なラフさを可能な限り良い音で伝えられるように工夫しました。
それぞれのトラックは、1時間もかけずにシーケンスを組んで、そのままの勢いで録音した最初のテイクのみを収録しています。あとから聴いて失敗していればその曲は使わないし、曲が足りないようであれば納得できるまで何度もゼロから作り直す。そのスピード感というか一回性が、本作の特徴になりました。
私にとって、こういう作りかたは椅子に座って頭で考えてやるものでも、ましてや本やテキストで学んだものでもなくて、あくまでも感覚と直感に基づくものです。それは、昼間は決して見えないものであったり、聞こえない音であったりするけれども、深夜のあのダンスフロアでのみ体験できる、さまざまな身体感覚。そういうわけで、こういうタイトルにしました。
楽器に関して言えば、Roland TR-8をメインに持ってきたことが音にもコンセプトにも大きく影響しています(ジャケットにも使っているし)。出したい音にすぐにリーチできる、というのがまずあって、そのうえでその音が「保存できない」ことが重要でした。
実は、このアルバムに収録した曲は、どれも元のシーケンスデータを一切残していません。ハードウェア機材のみによるトラック制作の何が良いかって、後戻りできなければ前に進むしかない、という推進力を与えてくれるところだと思うのです。音が残らなくても、経験は身体の中に蓄積されていくものだし、その結果として生まれたものがはじめは粗いものだとしても、徐々にディテールが磨かれていくはず。長いスパンではね。
一方、ショートスパンのレコーディングにあたっては、「一番活きのいい瞬間を掴む」ということが大事だと考えていて、その点には細心の注意を払っています。私は楽器がまったく弾けないのですが、その想像の範囲では、やはり楽器演奏に近いのかもしれません。
変な話、このプロセス自体は別に目新しいものでも何でもなくて、ひと昔前のテクノ制作ではこれが普通だったわけですよね。それに、アルバムに収録した曲には従来の4つ打ちテクノのフォーマットから逸脱するものはひとつもなく、全体として斬新な価値の転換をもたらすような類のものでもありません。
ただし、私はこれは懐古主義とはまったく違って、アートフォームとしてのテクノの普遍性が、テクノロジーの進歩によって、より強化されつつあるのだと捉えています。いくらジャンルの細分化が進み、流行が移り変わったとしても、ちょっとやそっとではブレない芯の強さが、テクノという音楽様式のなかには間違いなくあって、それが進化のタームごとに表出するのだと。本作も、そうしたうねりのなかの1点にすぎず、だからこそ奇をてらわず正面から、ツール=道具としての機能を持ったプロパーな音にこだわりました。
決して万人に向けたものではありませんが(そもそも趣味で作っているものはみんなそうだけれど)、頑張って作ったので、ぜひ届くべき人のもとへ届いてほしいなと思います。
2014-10-24
R-9 (Body Inform, EPX studio)
タイトル | Nightsenses |
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レーベル | Body Inform |
カタログNo. | EPXBICD3 |
収録曲 (BPM) |
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フォーマット | CD-DA(オーディオ用CD) |
収録時間 | 61:39 |
収録日 | 2014-09-09 ~ 2014-09-19 |
収録場所 | EPX studio, Yokohama |
使用機材 |
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発売日 | 2014-10-26 |
価格 | 800円(消費税込み/イベント限定価格) |