マシーン・テクノ・リヴァイヴァル
最近なんとなーく感じている、テクノを取り巻く流れについて書いてみます。
4月に来日したNeil Landstrummのライブセットを見て、その構成がElectribeを中心にMachinedrumやMonomachineなどの、ハードウェア機材で固められていたのはけっこうな衝撃でした。というのも、テクノDJ界隈ではアナログからデジタルへという流れが定着し、どこへ行ってもノートPC(というかMac)の画面と睨めっこなアーティストは当たり前。無論、トラックメイキングにおいてもDAW全盛な昨今、厄介な配線の取り回しや機材の置き場所を気にせずとも、ソフトウェアシンセやVSTプラグインだけでマスタリングまでできてしまう時代なわけで。
ただ、この人だけが変わり者なのかっていうとそうでもなく、機材好きな人ってのは、実際は今でもけっこういるわけですよね。
上の写真は、今年3月3日(303の日)茶箱で行われた「TB or not TB」というイベントでのものですが、この日は全員がハードウェア機材によるライブパフォーマンスでした。そういえばこの日のことをブログに書きもらしていますが、すごく楽しいイベントでした。
まあ、ここまでのビンテージ機材を例に出すまでもなく、KORGが中心となっていわゆる「ガジェット楽器」を盛り上げていたりします。佐野さんのDETUNEや、ここうさんたちの活動(ELECTRIBE LIFE)はその最たるもので、なかにはハードの制約を超えた、とんでもない音作りをしている方々もいるわけです。
一方でそれとは別の流れもあって、興味深い例が、昨年Drumcodeからアルバムを出したBen Sims。この人はもともとハードウェア機材で曲を作っていて、一時期そこから離れてPC中心の制作スタイルに移り、08年ごろにまたハードウェア中心に戻ってきた。RAのインタビュー記事"Machine love: Ben Sims"より。
I used to totally be hardware and analogue sequencers and old shitty Ataris and I was kind of happy with that set-up, but I was well aware that the sound quality people were getting with updating and new production skills were really leaving me behind. So I did make a concerted effort to try and change everything and stop using so much hardware stuff and start to get more digital, and I just got kind of lost in it...Just trying to keep up with things like, "fucking hell this person is using this program, I need to start using it," rather than it just it being about the ideas or what I was trying to do with the music.
他の人に比べて、サウンド・クオリティの面で遅れていると感じてPCを導入してみたものの、流行を追いがちになってしまうところが気に入らず、現在は、マスタリングまわりはエンジニアとして共同作業しているPaul Macに一任しているとのこと。古いサンプラーやリズムマシンを愛用しつつ、Abletonで組み立てているそうです。
個人的には、Neil Landstrummの件とは別に、「ハードウェア機材の質感」を再発見したきっかけが、RegisによるDownwardsの旧作リマスター作品でした。これはまさにハードウェアな生々しいサウンドで、Discogsには使用機材のリストも(おそらくは特装版のジャケから)転載されています。ノイズも、そこからくる質感も「味」として残しつつ、今のテクノと比較しても遜色ない「硬い音」にきれいにリファインされた好例だと思います。多くの名作が放置されている状況を鑑みると、こういうリマスターが求められていると思うんですよね。
また、Cari Lekebuschは昨年、LenkことJesper Dahlbäckと組んでハードウェア機材のみによるEP、"Hands On Experience"の2作目を発表しています。下のプロモ映像ではTR-707とTR-727を使った制作風景も。
つまり、昔より(個人レベルでは)はるかに進歩した今のマスタリング技術を前提として、古いアナログ/デジタル・ハードウェア機材を中心に曲作りをしてみるといいんじゃないか、と考えるテクノアーティストが何人かいるようです。
という流れのなか、つい最近、すごいアーティストに出会ってしまったのですが、長くなってしまったのでまた別の記事で。